9人目の3番打者
【10月6日】
アストラムライン牛田駅から徒歩3分のところに、トレーニングクラブ「アスリート」がある。金本知憲、新井貴浩らの自主トレ拠点として、カープファン、阪神ファンにも馴染みのジムである。
広島遠征では、3日間のうち一度は、この「アスリート」にお邪魔していた。同ジムの代表・平岡洋二に取材…いや、お喋りして帰る日のほうが多かったかも。コロナ禍の今季はそんなルーティンも叶わないけれど…。
当方がアスリートに最も多く通った新聞記者であることは、ほぼ間違いないと思うのだけど、あの日に限っては…今も悔やまれることがある。
「明日、糸原が来るよ」
あれは4年前だったか。平岡からそんな連絡を貰った日がある。糸原健斗が初めて同ジムでトレーニングする。だから、見に来るならどうぞ…というお誘いだった。
でも、あいにく別件があって行けなかった。前監督・金本知憲の「申し子」でもあったし、ルーキー年から糸原に注目していた。そもそも、彼の名ずっとは平岡から聞いていたので、間近で〈凱旋トレ〉を拝みたかったのだ。
彼は島根・開星高時分から「アスリート」の門下生だった。高校一年から平岡式トレーニングに励み、一年秋の中国大会で9打席連続安打。2年時の同大会は4本塁打で同校の優勝に貢献。プロへの礎を築いた故里みたいなものだから〈凱旋トレ〉である。
広島遠征のたび「アスリート」へ通い、トレーニングをこなして試合に臨む。そんな糸原が今回マツダスタジアムにいない。ご存じのように、新型コロナウイルスに感染し、今後は管轄機関の指示の下、復帰時期を探ることになる。
先月はじめ、右手有鉤(ゆうこう)骨骨折から戦列復帰し、スタメン即ホームランを放つなど、あらためて存在感を際立たせていただけに、憎きコロナだ。
矢野燿大はこの夜、1番に小幡竜平、3番に近本光司を据える新オーダーでカープ戦に臨んだ。
「3番が決まらんから、しんどいよな」。矢野は夏場そう語っていたけれど、想定外のコロナ余波で「3番候補」を失い、この夜も…四苦八苦しているように映る。
糸井、サンズ、糸原、陽川、マルテ、大山、福留、中谷、そして近本…。今季の阪神は9選手が3番を担うのだ。このポジションの顔ぶれがコロコロ変わるのは矢野の本意ではない、間違いなく。
小柄な糸原は何となく3番向きではないように映るけれど、出場試合数が伸びない中で本塁打はキャリアハイの3本だし、どんどん長打力がアップすれば、クリーンアップ定着も…。
決して恵まれた体格でない糸原が、なぜ本塁打を打てるのか。前述の平岡に聞けば、「本塁打?全然、打ってないじゃん。もっと打てると思ってるから、こっちは。筋力強いんだし…」という。
糸原がコロナから完全復帰すれば、矢野が悩む「3番」も再びある…というか、糸原が待ち遠しい広島の夜である。=敬称略=