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金本と大山の最高傑作

 【10月2日】

 当欄を切り取り、大学ノートに貼りつける。母の日課だった。今はそれが叶わない。時計の針を戻せるなら、スマホを買って使い方を教えておくべきだった。そうしたら、顔だけでも見られたのに。

 コロナ禍で入院中の母と会うことが許されない。きのう書いた。LINEのビデオ通話でもできれば毎日血色だけでも…今さら言ってもしゃあないか。母はベッドで上手くハサミを扱えないようで、彼女の為に僕が当欄を切り取るという、よく分からないことに…。

 大阪生まれの母は生粋の阪神ファンである。03年の星野阪神がリーグVを決めた9月15日は、母の誕生日だった。僕はあの歓喜を現場で取材し、V紙面を見た母は、それはもう嬉しそうだった。

 2年前、星野仙一は「(優勝まで)もう2年くらい待ってください」と阪神ファンに〈置き手紙〉を残し、鬼籍に入った。亡き闘将のためにも今年はそろそろ…開幕からそんな機運は高まり、母も大いに期待していた。しかし、原巨人が立ちはだかった。少なくともここまではGに完敗のシーズン。甲子園でやり返すなら、今カードが最後である。

 セ・リーグの日程を照らせば、次の同カードは東京ドーム。10月23日からの3連戦が今年最後のGTカードになるようだ。

 そっか。10月23日か…。

 03年のインパクトは僕にとって9・15と10・23。一方は虎党も良く知る日付だけど、もう一方はどうだろう?

 母の推しメン大山悠輔が二回に23号先制アーチである。これで岡本和真に1本差。この夜、読売テレビの解説席に座った金本知憲は貫禄のベースランを誇らしげに見つめていた。

 ご存じ、金本前監督が「サプライズでいく」とドラ1に指名した大砲が、4年目にして堂々キング争いを演じている。この夜の一発で通算55号。その軌道を全て覚えているわけではないけれど、55本の中で至極の一本を書けといわれれば、僕は直近の54本目を選ぶ。

 センターへのライナーがそのままバックスクリーン左へ飛び込んだような、そんなエグい低弾道は悠輔の最高傑作ではないか。

 僕はこの軌道を見たとき、03年10月23日を思い出したのだ。

 阪神の1勝2敗で迎えたダイエーホークスとの日本シリーズ第4戦。忘れ得ぬ、右翼席への低弾道は延長十回に飛び出した。

 「覚えてるよ。確か2ストライクまではフルスイングしているはず。外のまっすぐ狙いで大振りしてファウルを打ったと思う。で、これは振りすぎ、力入り過ぎだと思って、ミート、ミート、ヒットでオッケー、センター前ヒットで!という意識で打ったんよ」

 17年前の記憶を確かめれば、金本知憲は、ついさっき打ったかのように述懐してくれた。

 新垣渚から放った、あの劇的なサヨナラアーチは、僕が見た金本弾の中の最高傑作。ライトへのライナーがそのままスタンドへ飛び込んだような…。この続きは、6日の当欄で。=敬称略=

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