清水次郎ならどう伝えるか
【9月9日】
ふと、会いたくなる人っていませんか?ご無沙汰だけど、元気かな…そんな思いが募れば、僕は迷わず会いに行くことにしている。夢を追い、僕らの業界を去った同世代に久しぶりに会ってきた。
元ABC(朝日放送)アナウンサー清水次郎である。
虎党にはお馴染みだから、清水のキャリアをここで紹介するまでもないけれど…彼は16年限りで同局を退社し、現在は兵庫県立西宮今津高校で社会科の教員、並びに硬式野球部の部長を務めている。
「タイガースはどうですか?」
再会を喜ぶ間もなく、清水は阪神の「今」を聞くのだ。僕なりに現状を伝えると、うん、うんと頷きながら、かつての〈職場〉が今も気になる様子だった。
「ナイター中継で阪神戦を見ることはあるんですけど、全部は見られないのでね…」
3年生の担任である清水は日夜授業の準備に追われる。もちろん野球部の活動も全力傾注だから、一週間が飛ぶように過ぎる〈第2の人生〉を過ごすのだ。
「矢野さんはお元気ですか?」
かつてABCの解説者を務めた矢野燿大とは同じ時間を共有し、野球観も人生観も学んだそうだ。
だから、野球部の教え子に語りかけるとき、自然と「ヤノの考え」が口をついて出ることもある。
「物事を損得で判断するような人間にはならないでほしい」
西宮今津が今夏のラストゲームを終えたとき、引退する選手たちへ贈った清水部長の激励である。
「今すぐ答えは出ない。居残り練習をやったところで明日150キロを投げられるわけじゃない。でも、そういうものを信じてやれるかどうか。こんな練習をやればホームランを打てるというなら皆やる。今すぐ結果に結びつかないことでも信じてやり続けられる人間が、どんな世界へ進んでも最終的に強いんだ…というようなことを話しました。これは、矢野さんのお話や行動から感じたことです」
清水が教員への転身を考えるようになったのは、アナウンサー業に嫌気がさしたからではない。球児がキラキラ輝く甲子園大会を取材する中で、ある〈ギモン〉が頭を巡るようになったからである。
「親以外のオトナ(指導者)がこんなに真剣に子供と向き合う。本気で携わっている。いい関係性だなと思って…ただ、その一方で世の中には、自殺したり、犯罪を犯す子どもたちがいる。この子たちには周りにそんなオトナがいなかったのか…と。ぼんやりとですけど、そういう感情が(教師を目指す)始まりでした」
10年以上前から僕が一学年下の清水アナを尊敬していたのは、彼が勉強家だったから。囲み取材で隣になれば、選手への質問内容でそれは手に取るように分かる。だから思う。もしこの夜、清水が横浜にいれば、正念場で喫した3連敗をどう伝えるのか。試合後どんな質問を矢野に投げかけるのか。
次郎くんに会ってきた。金本知憲に伝えると、とても嬉しそうだった。近いうちに矢野にもしっかり伝えたい…。=敬称略=