天理大を取材したいワケ
【3月14日】
残念ながら阪神と天理大のプロアマ交流戦が雨天中止になった。鳴尾浜球場でのファーム練習試合である。実は、以前からこの一戦を楽しみにしていた。とあるルーキーの潜在性を取材したくて…。
「あの試合で、彼はかなり目立ってましたからね…」
阪神編成ディレクターの永吉和也はいう。
「『石原くん、ええなぁ』と、本部長からも言われましたし…」
永吉がそう話すように、確かに彼は目立っていた。近本光司の二盗は、速く正確なスローイングで刺されたし、2安打されたし…。
あれは2月15日だから、ちょうどひと月前の練習試合。沖縄・宜野座でのTC戦で、カープの先発マスクをかぶったルーキー石原貴規(いしはら・ともき)である。
兵庫・宝塚出身の石原とは縁あって僕の家族も世話になる間柄。だから、できれば阪神に…いや、それは独り言だけど、プロ輩出が多いといえない天理大の石原がどんな成長曲線でスカウトの目にとまるまでになったか。その過程を同大学の監督や同僚に、根掘り葉掘り、聞いてみたかったのだ。
昨秋は高校生捕手をターゲットにした阪神球団の指名方針から外れた石原だが、阪神大学リーグで首位打者を獲った強肩捕手の名はもちろん、永吉も知っていた。
「石原くんに限らず、この時期に活躍するだけで、監督や本部長からは言われますから。あまり目立たれるのはね…(苦笑)」
隣の芝は青く見えるように、好素材を他球団が発掘すれば羨むのがこの世界。これは阪神に限ったことではないが、2月にいきなりヨソの新人が目立てば、スカウトが球団幹部からイジられたり…。
永吉は、阪神球団広報時代、現役時代の金本知憲から沖縄・宜野座キャンプ中に諭されたそうだ。
「あの2人、めちゃめちゃエエやないか。あの2人を育てられなかったら球団の責任やぞ」
金本は打撃ケージで打ち込むある2選手…当時駆け出しの大砲候補の若虎を見つめ、そう言った。
金本が引退した12年限りで広報から編成職へ異動し、スカウトディレクターを経て現在編成ディレクター(ドラフト会議で阪神球団の円卓に座っている)を務める永吉に聞きたいことがあった。
ずばり、「一流」に育つのはどんな素材か。スカウトは指名候補の何を重視するのか。ポテンシャル、プラスαの要素は何か。
「考える力があるかどうか。どれだけいい素材であっても、考える力がなければ、成長が止まったり停滞するのは、僕が見る限り確かです。スランプは誰にでもあるでしょ。その時間を少なくするための努力というか、自分の特性なり、形の説明…どういう意図があるのかを答えられるかどうか…」
確かに、当方も阪神という球団を20年ほど見てきて思う。殻を破る者と、淘汰される者。一概にはいえないけれど、その選手が「考える力」を備えているかどうか。少し話せば分かることもある。
「井上広大?彼はあります」。永吉の言葉が嬉しい。=敬称略=