宜野座に吉兆の雨…

 【2月26日】

 矢野燿大がキャンプ総括で番記者に囲まれると、雨がぽつり、ぽつり…。大方晴天に恵まれた26日間の鍛錬が幕を閉じた。虎将はどんな思いで沖縄を離れるのか。

 宜野座キャンプ最終日、矢野はまずサブグラウンドへ出向き、横山雄哉と浜地真澄に声を掛けた。お前ら頑張れよ!そんな類のハッパではない。時間をかけ、彼らにしっかりと何かを伝えていた。

 監督と選手の対話のあり方は、セ・パ各チームによって〈十二人十二様〉である。どのチームが理想…そんなものを論じるのはナンセンスだし、勝てばそれが正解になる世界だから、矢野は自身が信じるあり方で選手に語りかける。

 矢野は現役時代、時の監督とどんな対話をしていたのか。前日、大山悠輔と話し込む姿を見掛け、

そんなことを確かめたくなった。 「野村監督から言われたことでいえば、配球をしっかり考えたり打ったりということはよく教えてもらったよ。根拠をもって勝負したのであれば、ある意味、見逃し三振は仕方ない、と。全部を追いかけても全部打てないんだから割り切って考えることも必要…そういうことを思い切ってやっていっていいんだ、と。それまでの俺はいい打者の打ち方、考え方を真似していたんだけど、でも、それでは技術の足りない者は打てない。じゃどんなもので補えるの?ってなったときに、そういうことを野村さんから話してもらってね…」

 番記者の取材の後、矢野はそう明かしてくれた。根拠の有無、プロセスの大切さである。20余年前ノムラの考えは「打者・矢野」の思考にも染みいり、監督という同じ立場に立った今、自然に、選手へ還元しているのかもしれない。

 矢野から語りかけられた内容は大山にとって、成長するための大きな引き出しの一つになるのか。宜野座で一本締めの大きな輪が解けた後、本人に確かめてみた。

 「もちろん。絶対なりますね。監督が、打者を後ろから見るキャッチャー目線の話をしてくださって。キャッチャーとして『こういう打ち方をされたら嫌だぞ』とか…。キャッチャーに『このバッターは嫌な雰囲気だな』と思わせたら勝ちだと思うので、キャッチャーとの勝負になったときに、キャッチャーが嫌がる打席にしていかないといけないと思いました」

 新型コロナウイルスの影響は阪神キャンプにも直撃し、宜野座の観客数も例年を下回った。沖縄タイムスはこの日1面で、沖縄を訪れた1月の観光客が前年同月比3・4%減となり、2月以降さらに落ち込むと試算していた。先の見えない不安を抱えたまま3月を迎える前例のないシーズンになるけれど、阪神の〈現場〉には、重いパンデミックをかき消すような陽の風、例年にない結束の空気を感じる。最後に、これは古株のオッサン記者しか書けないこと……。

 空を見上げて思い出した。矢野さん、覚えてますか?03年の宜野座キャンプ、最終日だけこんな曇天で…小雨が降り出しましたね。

 「へぇ、そうやったっけ。それ吉兆やな!」=敬称略=

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