勝つか負けるかしかない世界

 【12月9日】

 リーガロイヤルホテル広島でこの原稿を書いている。ここで取材するのは金本知憲のFA会見以来だから17年ぶりだ。カメラの放列からフラッシュを浴びる鯉のプラチナ…カープ新入団会見である。

 「今から皆さんは勝負の世界に入る。勝つか負けるかしかない」

 ソフトバンク王貞治球団会長は先日のホークス新入団会見でそう語っていた。どんな訓示より現実的、かつ厳しいハッパだと思う。

 僕が「世界の王」と初めて一対一で話したのは11年前の名球会総会。ワイキキの高級ホテルで問い掛けたのは、同年名球会入りした金本知憲について。王会長は「金本君は膝を痛めているんでしょ。軸足の膝を痛めるというのは打者の勲章なんだよ」。日々、数百、数千回バットを振りこめば、膝は悲鳴をあげる。華奢(きゃしゃ)だった「カープ外れ4位」の大卒新人が名球会、そして、野球殿堂入り…失礼ながら、28年前のカープ入団会見では、誰一人として想像できなかった…だろう。

 「勝つか負けるかしかない」世界で見事に「勝ちきった」金本を王会長は惜しみなく称えたのだ。

 今秋のカープドラフトの舞台裏を書けば、新監督の佐々岡真司は明確に「即戦力」中心の指名をフロントに要望し、その通りになった。「完壁なドラフトだった。欲しい選手が全員獲れた」。カープスカウト陣、フロントの間で異口同音にこんな言葉が飛び交ったという。そんな「完壁な指名」に於いて僕が注目しているのは、阪神のお膝元で礎を築いた5位指名の大卒捕手である。宝塚リトル→甲子園リトルシニア卒団の石原貴規(いしはら・ともき)。阪神フロントに聞けば「もちろん、見ていました」というが、最終的には指名リストに載せなかった。

 「今のウチに合う選手だと思って春からずっと見ていました。他(球団)は来ないで…と内心思っていましたから(笑)。彼の能力に魅力を感じていましたし、獲れて良かったと思っています」

 会見場の隅で、カープ近畿地区担当スカウトの鞘師智也は僕にそう語り、さらに「肩ももちろんですけど、性格も見ました。努力する才能がありますので」とも言った。これぞカープスカウト陣が共有する指名理念だとよく聞く。

 甲子園のスターを中心に指名した今秋の阪神ドラフトは巷で「ロマンドラフト」と呼ばれる。5位までに大学生を3人指名したカープとは対照的だろう。先日、僕は最近の阪神スカウト陣の眼力はもっと評価されていいと書いたけれど、スカウトの目が正しいか否か指名時に判断できないのがドラフトの醍醐味でもある。

 リーガロイヤル広島で石原貴規と話をした。もちろん関西弁で。「勝てる捕手になりたい」という彼に、具体的に?と問うと「試合の流れを読んで対応していくことが一番大事なスキルだと思います…」。六甲おろしを肌で知るカープドラ5の173センチ。「勝つか負けるかしかない」世界で、彼が甲子園へ「里帰り」する日を楽しみに待ちたい。=敬称略=

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