特別賞って凄い賞なの?
【11月26日】
歳を重ねると涙もろくなる。いや、歳は関係ないかもしれない。この仕事をやる以上、取材現場では冷静に…いつもそう思っているのだけど、あれは〈反則〉。全身に鳥肌が立ち、涙腺が壊れ…。
大腸がんからカムバックした阪神・原口文仁がレッドカーペットを歩いた。ファーム時代も含め、初めて立ったグランドプリンスホテル新高輪「飛天」の晴れ舞台。NPBアワーズで称えられ、喝采を浴びた「特別賞」…何度も取材してきたこの表彰式だけど、これまでで一番、嬉しい賞になった。
6月の交流戦で復帰タイムリーそして矢野燿大の涙を誘ったサヨナラ打。プラスワン投票で選出されたオールスターでは、2試合連発のホームラン。どんなロマンチックな脚本家だって気がひけるような劇的すぎるシナリオである。
原口ががんを患っている…当方は公表前に知ることになった。その少し前、阪急電車のとある駅で原口とばったり会った夜がある。少し話して別れたのだが、非情な宣告はその後におとずれた…。
フミが鳴尾浜でトレーニングを再開したのは、がん発覚から2カ月後の3月7日。当方の誕生日だから忘れられないのだけど、あの日、鳴尾浜で彼から逆に励まされたこともまた、忘れられない。
「風さん、僕は大丈夫だから」
そういって、オッサン記者の肩を抱き寄せ……なんて男なんだ。
「あれだけ一緒にいる時間が長いというのは、なかなかないことですからね…。オフよりも長かったですから。そういう時間はすごくありがたかったので。何とか野球で返すことができるように…」
NPBアワーズへ向かう前、フミとゆっくり話をした。
今回「特別賞受賞」を伝えた家族への思いを聞いてみると、辛いリハビリを過ごした春先の感情をありのままに語ってくれた。
「あの期間中は、体の状態が上がってこないと、どうしてもテンションが下がり気味になってしまって…。そんなときでも、家に帰れば、子どもはいつも無邪気ですから…。子どもが笑っていてくれるだけで、また頑張ろうっていう前向きな気持ちにもなれましたしね。あとは…家に帰ったら、一日一日リセットする時間、また次の日に向かって良いサイクルを作ってくれる妻もいてくれたので…。本当にありがたかったですよ」
フミはもう来季へスタートを切っている…というか、チャレンジを始めている。また年内に書こうと思うけれど、バッティングをゼロから模索し、これでいこう…というものを作り上げている途上だと教えてくれた。がんとの闘いが完全に終わったわけではない中で「体と相談しながら」(原口)、20年シーズンの晴れ舞台へ、無休で準備を進めているそうだ。
「実家の母親からは『特別賞って凄い賞なの?』って聞かれたので、『なかなかいただけるものではないんだよ』と答えると、すごく驚いて、喜んでいましたね」
来年は、また違う色のトロフィーをこのレッドカーペットで掲げるんだよな、フミ。=敬称略=