終わったところから始まる

 【11月19日】

 年末調整の手続きで会社に電話すると、総務の女性が一通り教えてくれた後、「あの…」と言う。「読者の方から電話で『取材ノートはキャンプが終わると終了ですか?』と聞かれたんですけど」。 「え~っと、普通のサラリーマンなので、仕事納めは年末です。11月で仕事は終わらないですよ…ってお返事しておいてください」

 笑いながら答えると、「そうですよね。去年も確かそうでしたよね」と総務の女性も笑っていた。

 虎番キャップ時代、現社長の改発博明から「オフがお前らの本番やぞ」と激励されたことがある。表向き何もないところから原稿を書く。我々の仕事は終わるどころか、これからまた、始まるのだ。

 鳴尾浜→安芸→日南→南郷→宮崎→鳴尾浜→安芸。11月の3週間をそんな行程で各地を巡った。

 「あら、長旅でしたね」

 球団本部長の谷本修は当欄を読んでくださっているのだろう。安芸名物の超長い階段ですれ違うと「ご苦労さまです」と、当方の弾丸出張を労ってくれた(?)

 「終わったところから、もう始まっているからな…」

 キャンプを打ち上げた矢野燿大は、僕の問い掛けにそう言った。

 この日の朝、伊丹~高知便のキャンセル待ちが回ってこず、かなり面倒なルートで何とか午前中に安芸市営球場に着いた。この秋2度目の安芸だけど、気のせいか、やはり1年前とは空気が違う。昨秋は前監督・金本知憲解任の直後…いや、それはもういい。

 矢野のキャンプ総括を直接聞いておきたい。そんな思いで、日帰りで安芸へ来た。虎番記者の囲みがとけた後、矢野に聞いてみた。会見で、オフの過ごし方について「選手個々が『自分がどうなりたいか』そこを見失うことなく…」と語っていたけれど、監督自身は現役時代、11月、12月をどんな心持ちで過ごしていたのか。

 「そうだな…。俺が決めたのは05年…あの日本シリーズで負けた後、絶対に次の日からやろうと。それだけは決めていたね。何日間か休んでスタートしてもいいんだけど、この悔しさを忘れたくないと思って『まずやろう!』と…。まずやって、この悔しさからもう来季は始まっているんだ、と」

 あの日本シリーズとは、千葉ロッテに4連敗を喫した屈辱のシリーズである。全試合ヒット(打率・417)を記録し敢闘選手賞を受賞した矢野だったけれど、4試合33失点の傷が癒えぬ翌日から始動し、雪辱を期していたのだ。

 「自分が『ここから』と思えばどこからでもスタートになるからさ。自分はそう思ってやってきたし、すべて繋がっている…すべて途切れてないと思ってやっていたよ。例えば、試合で大量点を取られて、嗚呼この試合終わった…と思った瞬間からもう始まっているからさ。現役をやっている以上、全部繋がっている…そういう意識は常に持ってやっていたけどね」

 終点が起点になる。この言葉を聞けただけでも、安芸へ来て良かった。矢野阪神の終着のない旅路を追っていきたい。=敬称略=

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