打撃マシンを一塁寄りへ…

 【11月12日】

 「監督っ!」

 そう呼ぶと、広島カープ第19代監督は照れ笑いを浮かべた。

 「まだ慣れんよ。全然…」

 佐々岡真司に会うために、宮崎日南の天福球場へやって来た。

 「風!」。ブルペンの脇から、こっちへ来いと手招きされたので練習中、話を聞かせてもらった。 「本当に自分で大丈夫なのかという不安もあったからね」

 佐々岡は監督就任を打診されたひと月前を振り返り、受諾までの胸中を偽りなく語ってくれた。

 カープに携わる者はみんな、もう何年も前から分かっていた。遅かれ早かれ「佐々岡監督」の誕生が既定路線であることを。ただ、性格的にとても優しい人だから、「束ねる」職に向かないのでは?広島関係者でそんなふうに言う人が少なくなかったのも事実だ。

 僕の知る佐々岡という野球人は昔から「苦手を潰す」ことに長けた人である。すべて書くとスペースが足りないので端折るけれど、まあ、そうでなければ、最多勝、最優秀防御率、沢村栄治賞、そしてノーヒットノーラン…こんな輝かしい実績は残せない。取材の限り、指導者になってからもこの特性は活かされているように思う。

 2軍からの配置転換で緒方カープの投手コーチに就任した今季、チーム防御率を昨年の4・12から3・68(リーグ2位)へ大幅に建て直した功績は見逃せない。今年は春先から一岡竜司、中崎翔太をのぞく投手をすべて先発としてスタートさせる、かつてない手法で弱点を潰すよう努めていたのだ。

 「阪神?毎年、ピッチャーがいいからね」

 チーム防御率セ界トップの虎に対するライバル心を問うと、球団53季ぶりとなる投手出身監督の矜持が滲んだ(ように見えた)。

 「苦手を潰す」佐々岡改革はまだまだこれからだけど、チーム関係者に聞けば、斬新なアイデア、アプローチが多々聞こえてくる。

 「例えば、投内連係の練習でもバント処理がすごく得意な投手と逆にめちゃめちゃ苦手な投手が、判で押したように同じ回数練習することはない。苦手な投手の回数が多くなって当然なので」

 確かにどの球団のキャンプでもそうか。投手数人でマウンドへ上がり、得手不得手にかかわらず同じだけ打球を処理して終わる。一通りやりました…そんな練習が佐々岡体制で消えるかもしれない。

 「風さん、覚えてます?」

 打撃コーチ東出輝裕が懐かしい話をしてくれた。

 「ここ(日南)で居残り練習をしていた金本さんが、打撃マシンをマウンドからかなり一塁側へ移動させて、背中から来るような軌道に設定してずっと打っていたでしょ。金本さん、岩瀬(仁紀)さんのスライダーを打ててなかったから、自分で試行錯誤して…」

 確かに、カープ時代の金本知憲は左腕克服に目の色を変えた時期があった。よく覚えている。

 昔、金本を弟分のようにかわいがっていた佐々岡だけど、苦手を潰す執念は金本に倣うことがあるのかもしれない。=敬称略=

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