技術、技術、そして技術

 【11月10日】

 若い虎番に「風さん、何度目の安芸なんですか?」とオッサン扱いされた。第2クールのことだ。オッサンだから仕方ないのだけどそんなの数えたことがない。え~っと、最初は99年だから…。

 初めての安芸は20年前の秋だったか。ちなみに初めて秋季キャンプを取材したのは、阪神ではなくカープである。初めて訪れた日南で往年の赤ヘル戦士を追った日々が、つい昨日のことのようだ。

 「おい、見てみろよ。このバット。ここだよ、ここを見てみ」

 正田耕三が当時20代の僕に言った。コーチ兼任になった晩年の正田が指さしたのは、前田智徳のバット。高卒9年目を迎えた天才が居残りでマシンの球を叩いた後、屋内練習場の脇に残された彼のバットには、ボールの跡形が綺麗に一箇所に重なっていたのだ。

 「(バットの)先っぽとか根っこに一つもボールのカタがついてないだろ?前田が全く芯を外さずに打っているのが分かるだろう」

 〈野球取材〉新米記者だった僕にとって、イチローがその打撃技術に惚れた前田は「神」の域。正田が教えてくれた「天才が追求する技術」に「へぇ~」と、ただただ、感心するしかなかった。

 さて、僕にとって20年目の安芸キャンプである。今秋の当欄は藤浪晋太郎にフォーカスすることが多くなるけれど、やはり興味は臨時コーチ山本昌の教示だ。レジェンドにしか見えない晋太郎復活へのアプローチがあれば、どんどん取材してみたいと思っている。

 山本昌は「チェンジアップを練習することによって、手首を立ててほしい。練習する中でリリースで(手首が)立ってくる。私自身がそうだったんですよ。チェンジアップを覚えて、リリースが立って、プロ野球で勝てるピッチャーになりましたから」と語っていたのだが、この手法について、投手コーチ福原忍に聞けばこう言う。

 「チェンジアップというかシンカーの握りで…あれは、僕らも聞いていて斬新でした。そういうこともあるんだ…と。手首が立ってくるっていう、あれですよね。僕はどちらかといえば、カーブで修正するみたいなイメージがあったので、本当、新鮮でしたね」

 技術か、メンタルか。晋太郎の低迷、そのワケについて我々含め周辺は臆測をぶつけ合うけれど、以前、落合博満は毎日放送の番組で「俺に言わせりゃ『お前、技術がないんだろ』ってだけ」と涼しげに指摘していた。さらに「昔の投手は、例えば『アウトローに何球投げます』と言ったら、そこに投げられなかったら終わらなかった。今の投手は『今日は100球投げる』と言ったら球がどこに行こうが100球で終わる」と、暗に晋太郎に昭和式のススメ…とにかく技術を突きつめることだと。

 長年活躍できた秘けつ-福原にそれを問うと決まって「僕の場合山本昌さん」と答える。行き詰まった際に仰いだ技術的な指南(近いうちに書きたい)を忘れないそうだ。責任コーチが師と仰ぐ臨時コーチの存在は頼もしい限りだ。=敬称略=

編集者のオススメ記事

吉田風取材ノート最新ニュース

もっとみる

    スコア速報

    主要ニュース

    ランキング(阪神タイガース)

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス