PLの逸材が絶賛する男

 【11月9日】

 安芸から一時帰阪した球団本部長・谷本修を追うように、僕も関西へ戻った。おそらくオフの仕事が山積みの谷本とは違い、当方の取材は居場所を問わない。甲子園で見ておきたいものがあった。

 この日、高校球児OBによるマスターズ甲子園が開幕した。開会式で、春夏7度の全国制覇を誇るPL学園が入場するとスタンドの拍手は一層大きくなった。

 観衆のお目当て桑田真澄がマウンドへ上がり、その後ショートを守ると、懐かしいブラスバンドの音色、そしてお馴染みの人文字が一層映えた。OBの片岡篤史、そして我らが福留孝介も観戦に駆けつけたノスタルジックな一戦に、オッサン記者も胸が熱くなった。

 実は、このPL学園OB軍の一員に、当方がプライベートで大変お世話になっている人がいる。

 難波清秀。10年前にPLのマウンドを守った右腕である。桑田真澄、前田健太ら同校エースの系譜を継ぐべく腕を振ったかつての逸材は、体型が少しふっくらしたものの、当時の面影が残る。

 「引退していても、プロ野球の球団に属している人間はマスターズ甲子園に出られないんです。難波のことはよく覚えていますよ。僕の2学年下で、よく打撃練習で投げてもらっていましたから」

 PL学園OBで、阪神球団広報緒方凌介(18年引退)は言う。

 そんな緒方の話を伝えると、難波は「当時、緒方さんは抑えられなかった。何を投げても打たれた記憶があります」と懐かしむ。

 逸材だらけの強豪に於いても、上には上が…そんなステージでプロ野球に挑み成功するのはごくわずか。当方は厳しい世界を取材しているのだな…と改めて思う。

 難波が抑えられなかった緒方といえば、前監督・金本知憲がその打撃技術を絶賛した男である。

 「確かに金本さんには褒めていただきました。『お前の打ち方は言うことがない』と。だから、打撃指導していただくことがなく、少し寂しい思いをしていました」

 緒方は続ける。

 「金本さんからは『お前は難しい立ち位置だぞ』と言われていました。『技術的には言うことがないのだから、あとは結果を出すだけ。この打ち方をしていて結果が出なかったら厳しい』と…」

 褒められるのは嬉しいけれど…そんな究極の通達もあるのか。

 僕の知る限り、金本がこれほど絶賛した阪神の若手はいない。だから、緒方に聞いてみた。自分自身と近い打ち方をしている打者は今、この阪神にいるのか。

 「います。近本です。近本からは『僕、緒方さんの打ち方に似ていると思います』って言われましたし、僕も似ていると思います。僕と近本を比べると、近本に失礼ですけど…。僕は追い込まれてからゴロを打てなかった。対応力に欠けてプロで成功できませんでしたけど、近本の対応力は凄い。近本は結果を出せる打ち方で結果を出している選手なんですよ」

 甲子園でPLのレジェンドを眺めながら、近本光司が牙を研ぐ安芸へ戻りたくなった。=敬称略=

編集者のオススメ記事

吉田風取材ノート最新ニュース

もっとみる

    スコア速報

    主要ニュース

    ランキング(阪神タイガース)

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス