東京Dで大山が笑った

 【10月11日】

 宿泊する都内のホテルでは毎朝部屋に読売新聞が入っている。ご存じ、同紙は巨人軍の親会社だからGが勝てば紙面は賑やか。この日は21面にカラーで「メルセ快走G王手」と見出しがついていた。

 「どうぞ、おあがりください。時間があれば、少しお話しましょうか。私は40年間、ず~っと阪神ファンでね。申し訳ないけれど、お宅の新聞は…。あなたがデイリースポーツの方なら、100部でも購読するんですけど(笑)」

 これは都内在住のある人と読売新聞販売員との間で本当にあったやりとりである。この「ある人」とは、金本知憲と親交のある資産家で、熱烈な虎党。シーズン中は都内から日帰りで甲子園の巨人戦(ナイトゲーム)を観戦するほど熱の入りようで。ともに食事をすれば、采配や用兵に〈噛みつく〉こともあるので、監督時代の金本はよく苦笑いしていた。

 巨人は敵。憎き巨人をねじ伏せたい…熱い阪神ファンの旗幟(きし)である。読売新聞の販売員に説教する人は〈別格?〉だけど、「ヨミウリ、タオッセ~」と合唱する反骨の黄色い血が流れる方々は、日本中に大勢いらっしゃる。

 東京ドームで大山悠輔の笑顔を見たい。大山がスタメンを外れたCSファーストSの最終戦(横浜スタジアム)でそう書いた。あの夜、大山は僕に言っていた。「自分が(スタメンで)出られないのは、出られないなりの理由があるからです。悪いのは自分…。何とかしたい気持ちは強いです」。

 阪神は、ホントに雑音の多い球団である。こんな書き方すると、それこそカドが立つけれど、ああだこうだ用兵にまで口を出す媒体もある。今季「阪神の4番」で苦難を味わった大山の耳にも、そういうものはいつも入ってくる。3年目、24歳のメンタルが不安定になってもおかしくないほどに…。

 黙らせろ!大山!

 ここだけの話…いつもそう思っている。

 「絶対諦めることはないので最後まで頑張ります」。この夜、東京ドームで大山はそう語った。

 阪神が勝てば、ありがたいことに、デイリースポーツは売れる。

苦しんできた大山の劇弾で巨人を倒せば、なおさらである。台風19号が直撃しそうな関東地方だから売店の売れ行きはどうか。ホテルの部屋に入れて下さる読売新聞は土壇場で大山に被弾した〈1敗〉をどのように報じるだろう。

 何度も書くけれど、今季、阪神最多の勝利打点を挙げた打者は大山である。負けられない戦いで彼を信じて送り出した矢野采配に、僕がいうのも何だけど、感謝。

 3年前、大山をドラフト1位で欲しがった男はこの活躍をどう見たのか。連絡してみると、金本は今…ま、それはいい。今だから書くけれど、前監督は大山をわざわざ自宅へ呼んでまで叱咤激励したこともある。それほど、大山育成の使命感に燃えていたのだ。同級生から渡されたバトンを矢野は重く受け止めている。岡本和真を凌ぐ主砲に…。煩(うるさ)型の虎党の悲願でもある。=敬称略=

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