面白いんじゃないの?

 【10月6日】

 野球は確率のスポーツといわれる。リスクマネジメントには過去のデータが有効だし、数字が用兵の根拠になったりする。そういう意味で当方が注目したシーンがある。五回表、阪神の攻撃である。

 矢野燿大はこのゲーム最初の代打に上本博紀を送った。1死無走者から青柳晃洋に代わる打席である。マウンドには、ここまで初回1安打のみに抑えられていた左腕・浜口遥大。何とか風穴を。流れを三塁側へもってきたい。とても大切な用兵になると見ていた。

 ベンチには、当然、分厚いデータが備えてある。こちらも手元のデータと照らし合わせてみる。上本対浜口。〈左腕に右打者〉はセオリーだけど、両者の対戦成績は19打数2安打0打点、打率・105。どんなタイプにも対応できる上本が苦慮してきた左腕であることが分かる。そして、オッサン記者は、なるほどとうなずく。

 上本だけじゃない。浜口は右打者が苦手にする左腕なのだ。本紙評論家の新井貴浩が浜口について語っていたことがある。「あのチェンジアップ…右バッターのほうが難しいんですよ」。仰るその通り。本紙記録部によれば、浜口の対戦被打率は左打者=・248に対し、右打者は・236。だからこそ、思う。上本はよく打った。

 あの代打ヒットから北條史也、福留孝介の連打で1点差。流れを引き寄せ、六回に、今度は上本が振り出しに戻す同点打である。

 「僕、(これまで浜口を)打ててなかったですよね…。それは分かっていました。とにかく、ボール球を振らないようにと思って」

 試合後、ハマスタの通路をバスへ歩く上本に、六回の同点打ではなく、五回のチャンスメークについて聞くと、小声でそう話した。

 「現役でプレーしていると、そこまで感じなかったんですけど、こうやって外から野球を見ていると、すごく感じますね…」

 こちらは〈上本の同級生〉のコメントである。実はこの日、先日現役引退を決断したタイガース山崎憲晴がテレビ神奈川(tvk)の放送席に座っていた。試合前、矢野から「よっ、初解説!」と声を掛けられたノリハルはゲームの「流れ」についてそう語った。DeNA、阪神両球団でプレーした経験を買われ地元局から解説を依頼されたようで、かつて大学ジャパンで同僚だった上本の代打安打を「あそこで浜口からよく打ちましたよね」とプロの目で称えた。

 サヨナラ敗戦の直後、チームの最後尾でバスに乗り込んだ矢野に聞いてみた。大舞台ではあるあるの激しい「流れ」について…。

 「いや、面白いんじゃないの」

 少し口を尖らせながらそう言った。ギリギリの戦いに敗れたリーダーが「面白い」わけはない。ファンにとって〈面白くなったのでは〉そんなニュアンスである。

 世界大会などスポーツの祭典を何度か取材してきて思う。大舞台ほど、データを超越した感性、勝負勘がモノをいうことは多い。福留対山崎康晃?通算12打数1安打…その1安打も山崎の新人時代でしたけど、何か?=敬称略=

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