鳥谷を主役にしない会
【10月5日】
できるだけ長く、鳥谷敬と一緒に野球をやりたい。これ、阪神ベンチに流れる合言葉でもある。鳥谷が慕われてきた証だろうし、そんな彼の求心力が不思議な力をもたらすのかもしれない。でも…。
この度の鳥谷の退団劇を阪神球団の〈過失〉のように感じる虎党も多いと思う。功労者にそんな仕打ちはない。もっと、やり方があっただろう。大方、そんな論調である。どっちにもイイ顔をするつもりはない。取材が行き届かず、真相が不明なまま僕も書いた。
構想外を伝えるタイミングは、ほかになかったのか-と。
この原稿…実はかなり複雑な気分で書いた。鳥谷を哀れみ、悲劇のヒーローに仕立てていないか。そういうのは性に合わないので、書きながら、なんでこうなってしまったのか、いろいろ考えた…。
奇跡的なハマスタ劇場で鳥谷の出番は最後までなかった。ヒーローは5打点の北條史也である。阪神の6点差逆転は今季初…というか、CS史上初の快挙だという。
こんな日に書けば、北條はイイ気分はしないだろうけど、あえて書く。そもそもこんな空気にしてしまったのは、北條の〈不甲斐なさ〉に起因しているのだ!
ご存じのように、2月沖縄キャンプのMVPは北條だった。左肩亜脱臼から再起を期したキャンプで、実戦打率・524。正遊撃手争いについて矢野燿大は「ジョーが抜けている」と話したほどだ。
19年は背番号2が背番号1に引導を渡す年。僕は…というより、矢野こそが、そう確信していたと思う。北條の練習姿勢、練習で醸し出す気迫は別格…担当コーチやチームの裏方、スタッフ、誰を取材しても、みんな口を揃える。
このプレーオフは、いわば鳥谷の〈追いコン〉にしなければならない。鳥谷とお別れする寂しさ、悲しさ…そういう感情を目いっぱい込めながら、ただし、後輩たちは〈無礼講〉で偉大な先輩を送り出す必要がある。鳥谷ファンには申し訳ないし、当方だって複雑な思いだけれど、つまり、背番号1に出番を譲らない無礼講だ。
さあ、東京ドームへ行こう。
そう、そう…。東京ドームといえば思い出す。3年前、水道橋でメシへ繰り出す鳥谷と北條とばったり出くわした夜があった。
「イケてないコンビで行ってきます」。鳥谷は僕にイタズラっぽくそう言って後輩を連れ出した。北條が失策など攻守に精彩を欠いたその日、本来ならチーム宿舎の食事会場でおとなしくすべき?ところを、鳥谷が首脳陣、スタッフに了承を得て、かわいい後輩の心を救った…そんな夜があった。
北條の恩返しは、何か。
トリさんの後釜は俺…。今季そうなると誓った25歳が遅ればせながらその空気を醸し出している。
「すごいね…」。監督会見で矢野は感極まっていたという。
「明日決める気持ちで…」。ハマスタで背番号2はそう語った。
寂しい。確かに、そんな感情はあるけれど、阪神はこのプレーオフで鳥谷敬を主役にしちゃいけないのだ。=敬称略=