丸を育てる大変さ

 【2月21日】

 朝10時前、阪神の球団事務所に続々と球団幹部が姿を見せた。かつて当方もそうしていたように、幹部の通勤を待ち受けた虎番記者がこの日も個別に取材していた。所謂、ストーブ・リーグである。

 ナイターで原巨人がDeNAを倒し、リーグ制覇を決めた。こんな節目だから。各社ストーブ取材が熱を帯びて当然。退社時よりも時刻の定まった出勤時に…と、番記者は幹部を〈捕まえる〉のだ。

 但し、暗い顔つきで近寄ると先方も構えてしまう。例年そうだけど、つとめて平常に…そんな気構えで取材するようにしている。

 「あぁ、おはようございます。由宇に行かれていたんですよね。小幡くん、どうでしたか?」

 濃紺のスーツ姿で出勤した球団社長の揚塩健治から逆取材されてしまった。社長は毎朝当欄を読んでいただいているようで、僕の取材動向は常に?把握している。

 確かに、広島の2軍球場・由宇へ行ったことを前回書いた。小幡竜平を見ておきたくて…とも書いたので、そんなツッコミが入ったわけだが、揚塩も〈当然〉ドラフト2位ルーキーの現在地は気になっているようだ。

 由宇だけでなく、この1年取材してきた阪神、そして他球団のファーム関係者の見立てを揚塩に話すと、「そうですか。それはいいじゃないですか」と頬を緩ませていた。つまり、小幡の1年目に対する評価は総じて高いのだ。

 近本光司のような1年目の〈大当たり〉はそうはない。

 スカウトが見定めた良質な素材をいかに主力に育て上げてゆくか…。10人獲って5人も育たないのがプロ野球の世界である。その年代で1人か2人…将来の虎を背負ってたつ選手が出てきて欲しい。小幡がその候補であることは取材の限り間違いなさそうだし、揚塩も並々ならぬ期待を寄せている。

 「主軸をひとり育てるのは大変なことだと金本さんも言ってましたよね。ウチは丸という主軸が一人抜けました。その丸が巨人で活躍して、巨人が強くなる。当然といえば当然のことで…。ウチはまた丸(のような選手)を育てないといけない。そういうことです」

 こちら三塁側ベンチでカープ打撃コーチ東出輝裕はそう語った。

 主軸ひとり育てる大変さ…か。 思えば丸佳浩も高卒新人(07年度高校生ドラフト3位)だったわけで、当時は、これだけの主軸に育つなんて保証はどこにもなかった。この日、先制弾を放った菊池涼介しかり、鈴木誠也しかり…。

 オリックスで育った、オリックスの主軸・西勇輝が来てくれて阪神の台所はぶ厚くなった。当然である。僕は補強論者なので、福留孝介も糸井嘉男も大歓迎したけれど、これはあくまで僕の発想だ。

 福留と2人で話をしたとき、彼は僕にこう言ったことがある。

 「やはり阪神ファンにとって、鳥谷敬は特別な存在なんですよ」

 ファンを喜ばせる-が矢野阪神の命題であるならば、その特別な存在の後釜をつくらなければならない。もちろん北條史也が担っても虎党は大いに喜ぶ。=敬称略=

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