新人王の「条件」
【9月19日】
山陽新幹線の新岩国駅で降り、錦帯橋(きんたいきょう)へ…行きたかったけれど、錦川の方ではなく銭壷山の方角へ向かう。岩国錦タクシーの車窓から長閑な村々をのぞみ、目的地へ着いた。
「どうしたん?遠路山奥まで。きょうは阪神の新人が長嶋さんの記録を超えるんじゃないん?」
由宇球場へ着くなり、懐かしい顔に会った。
その人は、時永彰治。往年のカープ関係者でこの名を知らない人はいない。もちろん、金本知憲や新井貴浩らもよく知る中国新聞の〈伝説の〉カープ番記者である。
聞けば、今年69歳になったという。僕が時永に世話になったのはもう20年も前のこと。当時、時永は40代だから計算は合う。
「心配しなくても、甲子園には近本光司をよく知る番記者がいますから。こちらは視点を来季の矢野阪神にシフトして、ここへ…」
ウエスタン・リーグ広島戦を観にきた目的をざっくり伝えると、時永は「ワシはきょう仕事休みなんじゃけど、チラッとのぞきに来たんよ。今年初めての由宇じゃ」
と、少し痩せた背中を伸ばした。
定年後、中国新聞の属託として今もカープに携わるロマンス・グレー(?)…愛称「トキさん」とともに試合観戦しながら、なかなか〈濃い〉昔話になった。
(この夜、長嶋茂雄を超えた)近本は新人王を獲りそうか?
そんな話題から波及し、1998年の「伝説の新人王争い」を振り返って、ああだこうだ、と…。
21年前、セ・リーグの新人王争いはハイレベルで、候補者は4人もいた。我がタイガース坪井智哉のほかに、高橋由伸、川上憲伸、そして、小林幹英である。
レースを制したのは川上だったが、時永は「ワシは小林幹英に入れたはずよ。そりゃ、あのときカープを担当する者としてのぅ」。 新人王の投票権は、プロ野球を担当して〈5年以上〉の記者が有するもので、21年前の僕には権利がなかったのだが、時永は「思い入れの一票」を投じたという。
思い入れといえば、時永がカープ番だった頃、20世紀最後の200勝投手から責任重大な依頼を受けたことがあったそうだ。
「北別府学の引退試合の挨拶文を書いてくれって頼まれてな。下書きじゃったけど、なかなか書けなくて、眠れんかったよ…」
これこそ、深い〈思い入れ〉がなければ書けるものではない。
そうそう。由宇へきた目的は、いくつかあるのだけど、その一つは、やはり小幡竜平である。鳥谷敬が去った来季の阪神で大注目はショート争い。木浪聖也を筆頭に熱く盛り上がれば、これまでにないハイレベルな競争になる。ん?小幡は高卒?いえいえ、彼なら大丈夫。村上宗隆だって19歳です。
さて、ヤクルト担当は新人王の一票を誰に入れるのか。そして、虎番は…。客観公平が原則だけど例えば、その争いが先発投手と抑えの場合。本塁打バッターとアベレージヒッターの場合…。明確な基準がない以上、「思い入れ」は大きな条件になる。=敬称略=