金本が語る近本の577

 【9月12日】

 きのうは時間の制約もあって紙面の扱いが小さくなったので、一日遅れだけど、しっかり触れておきたい。近本光司の記録である。長嶋茂雄に「あと7本」とせまる新人安打記録…ではない。

 連続打席無併殺記録。バッターがどれだけ長い期間ゲッツーを免れるかという、金本知憲によってメジャーになった記録である。近本がこれに〈挑戦〉していたことは読者もご存じの通り。彼は開幕から一度もゲッツーを打たずにきたのだが、出場129試合、578打席目にして初めてゲッツーを食らったのが11日の夜である。

 ゲッツーなんて打者につきものだから、いかに俊足とはいえ、近本の「577打席連続無併殺」は立派というしかない。

 (1)1002打席(00年~01年)=広島・金本知憲

 (2)883打席(52年~54年)=阪神・金田正泰

 (3)849打席(81年~83年)=巨人・松本匡史  

 (4)786打席(66年~67年)=中日・中暁生

 (5)752打席(66年~70年)=ヤクルト・東城文博

 これが同記録のセ・リーグベスト5である。年代的に2位以下で僕の知る選手は、俊足で「青い稲妻」の異名をとった松本くらい。

長い球史を紐解いても、500打席以上ゲッツーを打たないことがどれほど困難かよく分かる。

 本紙記録部によれば、2リーグ分立後、阪神の規定打席到達者で「シーズン併殺打0」は1953年の金田正泰、69年の藤田平、そして98年の坪井智哉の3人。新人でいえば坪井のみだったので、近本に〈球団史上2人目〉への期待も高まっていたのだが、残念ながら途切れてしまった。

 金本が12年の引退会見で「最も誇れるもの」を問われ、数々の記録の中で「1002打席連続無併殺」を挙げたことは有名である。

 走者を一塁において内野ゴロを打つ。全力疾走で一塁を駆け抜けゲッツーを免れても、打撃成績は下がる。フォア・ザ・チームで走り続けた自負、誇り…だろう。

 全力疾走の尊さを大記録で示した金本は近本が築いた「577」という数字をどう見るだろうか。

 本人に聞いてみた。

 4番打者の金本と、1番か2番を打つ近本。〈併殺リスクのかかる〉走者を置いて打席に立つ機会は、金本のほうが多かった…そんな話をすると、金本は僕に〈深い見解〉を語ってくれた。

 「ランナー一塁の局面で、俺が打席に立つときと、近本が打席に立つときでは、(相手)内野手の位置は、俺が打席に立つときのほうが多少深くなると思うから、ゲッツーをとりにくくなるよな」

 ほう…。守備位置までは記録に残っていないけれど、そこまで考えもしなかった。つまり、金本は近本の「577」は〈足の速さでは金本より近本だが〉とても価値があるもの…と言いたげだった。

 長嶋の153安打はもう間近だけど、金本の1002打席は近本に再び追い求めて欲しい、尊い日本記録である。=敬称略=

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