「慎也の言葉」にハッとする

 【9月10日】

 とても残念だなと思う。この日発表された東京ヤクルトの人事である。監督の小川淳司、ヘッドコーチ宮本慎也が「退任」するという。縁あって宮本の野球観に触れるようになったばかりなのに…。

 「結果がすべて。ヘッドコーチという立場は監督と一心同体。監督だけの責任じゃないのでね…」

 監督候補といわれ続けた男は責任の所在を明確にし、実に〈宮本らしく〉チームを去る決断を下したのだ。個人的には、またいつかユニホームを着て欲しい。同い歳なので、少し贔屓目もあって…。

 指導者を惜別するのもおかしいけれど、宮本慎也といえば思い出すエピソードがある。

 あれは僕が虎番だった09年。当時現役の金本知憲から、料理店の予約を頼まれたことがあった。

 「慎也から食事に誘われたんだよ」。ヤクルト主催ゲームの秋田遠征で、金本と宮本はテーブルを囲み、野球談議に花を咲かせた。

 乾杯直後、さっそく宮本は金本に問い掛けた。

 宮本「いきなり野球の話をしてもいいですか?」

 金本「大歓迎だよ」

 宮本「金本さんは普段、若い選手に厳しく言ったりしますか?」

 金本「若い選手が全力疾走を怠ったりすると、厳しく言ったことはあるよ。目に余るときは言うけど…でも、どうかな、そんなにガミガミは言わないかな…」

 宮本「僕は、ああだこうだ言い過ぎているかもしれません…」

 なぜ、宮本が金本にそんな話を振ったのか。後に金本から聞いたのだが、宮本が若手に手厳しかったのは実はワケがあったという。

 当時、ヤクルトは〈カープが代々そうであるように〉自前の選手を他球団へ持っていかれるチームであった。とりわけ外国人は顕著で、過去にアレックス・ラミレスやセス・グライシンガー、ロベルト・ペタジーニら、自軍スカウトが獲得した優良助っ人が次々と読売巨人軍へ移籍。FAでは主砲の広沢克実を持っていかれたり…。

 ヤクルトは、GやTのように巨大補強を敢行する球団でもない。

 宮本「個々の力を伸ばしていくしかない中で、チームの底上げのために若い選手に対してどんどん厳しく言ってしまうんです」-。

 秋田で宮本のそんな話を聞いた金本は「ハッとした」という。

 「俺もカープにいた頃は若い選手にもっとうるさく言っていたなと思って。あの頃は新井(貴浩)や東出(輝裕)ら、若い力がどんどん成長して、どんどんレギュラーにならなければ、カープは強くならない。そういう思いで、彼らにはキツく当たっていたから…」

 そういえば、先月、宮本に19歳村上宗隆の育成法を聞いたところ「30本塁打超え」を称えるのではなく、「12球団最多の三振」を指摘していたのが印象的だった。

 金本とのやりとりを思い起こせば、宮本はヤクルトの歴史を知りヤクルトの未来を思うからこそ、嫌われ役になった。選手時代、そして、コーチ就任後も…。

 そのあたり、阪神はどうか。また、続きを書きたい。=敬称略=

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