すべて、自分次第なんで

 【9月8日】

 マツダスタジアムの放送ブースに新井貴浩の姿があった。この日広島テレビの解説だった彼だけどどうしても聞きたいことがあったので、話をする時間をもらった。あの選手の引退についてである。

 「最初に聞いたときは、寂しいという気持ちが一番でしたね…」

 永川勝浩と赤松真人。新井にとって(僕にとっても)思い入れの強い赤ヘル戦士が今季限りでユニホームを脱ぐことになった。とりわけ赤松の引退を惜しむ阪神ファンは多いと思うので、彼とのエピソードを新井に語ってもらった。

 ご存じの通り、赤松といえば、FAの新井と入れ替わる格好で広島へ移った外野手である。

 当方は「人的補償」という言葉がキライなのでここでは使わないが、その補償とやらで花開いた男は立命大の後輩。そんな縁もあって贔屓目に見ていたし、カープ戦で会えばよく言葉を交わした。

 「カープに来て本当に良かったと思ってますよ」。移籍間もない頃、赤松がそう話していたのが懐かしい。でも、一方の新井は…。

 「やっぱり、申し訳ない気持ちがありましたから…。自分と入れ替わる形だったんでね。確か、あれは京セラドームだったと思うんですけど、阪神へ移籍してから初めて赤松とグラウンドレベルで話をしたときに、彼の言葉に救われたというか…気持ちが楽になったことをよく覚えています」

 08年3月のオープン戦、タテジマの一員になった新井は、赤いユニホームをまとった赤松のもとへ歩み寄り、こう言った。

 「何と言ってええかわからんけど…。申し訳なかったな…」

 すると、赤松は笑顔で返した。

 「新井さん!何言ってるんですか!僕にとって(この移籍は)チャンスなんですから」

 新井はうなずき、やはり笑みで返すしかなかった。

 赤松の言う通りになった。彼が逸品の走・守によって、新天地で移籍初年度から存在感を際立たせたこと…特にあのザ・キャッチが世界中で称賛されたことは、新井にとって「すごく嬉しい」ニュースだったし、またその7年後、不思議な縁に導かれるように両者が同じユニホームでVを味わったこと…これには密かにシビれた。

 トレードやFA補償で所属チームが変わる。球界の「非情」と思われがちだけど、概して、当該選手にとっては〈結果的に〉ポジティブな要素が大きい。

 4番・長野久義にやられた〈正念場の〉C-T第3Rである。

 9月の長野は26打数9安打、打率・346と巨人時代のイヤらしい男に戻りつつある。昨季引退した新井の代役としてカープが人的何とかで獲得した経緯はご存じの通り。まだまだ輝ける歳だから、これからも阪神にとって厄介…。

 僕もよく知る医師の診断で赤松の胃がんは発覚した。野球はもういいから、彼の命を…そう祈っていた。そんな時、カープへ移籍した頃の赤松の言葉を思い出した。「すべて、自分次第なんで」-。広島で花を咲かせた男の美学に拍手を送りたい。=敬称略=

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