「奪三振王」久保康友の思い

 【9月3日】

 横浜へ来る前に前DeNAの久保康友とゆっくり話す時間があった。もちろん、阪神ファンもよく知る名前だろう。彼とは、家族同士が親しい間柄でもあり、日ごろからとてもお世話になっている。

 とはいえ、久保本人と会うのは半年以上ぶりである。野球ファンはよくご存じだろうけど、今夏39歳になった右腕は海の向こうでバリバリ現役を続けているのだ。

 「毎日、何かが起こる。そんな世界でした。日本の常識では、まず考えられないことの連続で…」

 先月27日に帰国した久保は、うっすらと髭をたくわえた口元を緩め、土産話をしてくれた。

 ロッテ、阪神、DeNAと日本で13年間プレーし、昨年活躍の場を海外へ求めて渡米した。今季はプロ野球メキシカンリーグ「ブラボス・デ・レオン」というチームでエースとして躍動。ポテンシャルの宝庫ラテンのフィールドで、「KUBO」の名を広めた。

 が、その一方で、公私において約束履行の概念が薄い文化を思い知らされたという。球団から準備された住居は契約に必要な書類が用意されず、家賃滞納を余儀なくされ、ホームレスの危機にさらされながらプレーする日々…。

 「挙げればキリがないですけど…例えば、エアコンが壊れたので『修理に来て欲しい』と電話して『じゃ○日の○時』と約束する。でも、来ないですから(笑)」

 それでも「いやぁ、いい経験できました。こんな世界だと思えば楽しいですよ」と、40歳の来季もメキシコで現役続行の予定だ。

 今季は一年間ローテを守り「奪三振王」のタイトルを獲得するなど、不可欠な存在になった。

 奪三振王…そう聞いて〈意外〉と感じる読者がいるかしれない。かつての久保の投球スタイルを覚えているだろうか。変幻自在のモーションとカット系でバットの芯を外し、ゴロアウトを重ねる…そんな印象が強いと思う。新天地で「変身」したワケを聞けば…。

 概してグラウンド状態が悪く、時にとんでもないイレギュラーもあってゴロアウトが取りにくい。だから「確実にアウトを取るには三振を取るしかないんですよ」。 スプリット、そして、高めの速球で空振りを…そんな話をしているうちに、久保は阪神時代の僚友あの世代の名前を思い起こした。

 「球児、今年はどうですか?抑えやっているんですよね?」

 現状を伝えると、久保はとても喜び、「球児には、ほんまに頑張ってほしいんですよ」と言った。

 ご存じ、二人は1980年生まれの「松坂世代」である。

 「騒がれた世代ですけど、名球会に入った選手が一人もいないでしょ。球児は250セーブまであと14?個人的には達成してほしい思いが強いんです。『権利』があるのはもう球児だけですから…」

 「松坂世代」は93人がプロ入りしたが、野手、投手とも名球会入りは不在。球児の本音は分からない。でも、僕も密かに久保と同じ思いを抱いている。藤川来季も現役-。本紙が報じたニュースにファンの夢が乗っかる。=敬称略=

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