構想外を伝える「とき」

 【8月30日】

 降雨の中、背番号25がノックを受けていた。内野は全面にシートが被せられ、外野は水が浮いている。この日、午後3時前の甲子園である。三塁ベンチ前で打球をさばく江越大賀を見て思い出した。

 江越がドラフト3位で阪神に入団した5年前といえば、彼が尊敬する駒大の先輩が阪神を去った年である。背番号25の前任者はその後、輝きを取り戻し、古巣カープに3連覇をもたらしたのである。

 新井 阪神退団-。

 デイリースポーツがそう報じた14年の秋を回想しながら伝統の一戦を眺めた。グラウンド不良でプレーボールは1時間遅れ。両軍選手がベンチ前に整列した国歌斉唱の際、バックスクリーンのビジョンに〈意図的なのか〉二度、三度、鳥谷敬の表情が映し出されていた。

 チームのため、ファンのため、そして鳥谷敬のために、果たしてこのタイミングが正解なのか-。例の案件について、当方の取材、そして正直な気持ちを書きたい。

 阪神球団は29日の朝、甲子園球場に隣接する球団事務所内の一室に鳥谷を呼び、来季構想外の旨を伝えた。今季は5年契約の最終年だから、遅かれ早かれ、その種の話し合いが持たれるとは思っていた。球団側に契約更新の意向がない場合、「通達」が早々に行われることはよくある。それでも、なんだかなぁ…と感じるのは僕の感覚がどうかしているのだろうか。

 逆転CSを狙う虎に水を差したくない。正義ぶるのは性に合わないし、そもそも現CS制を冷めた目で見ているのだけど、まだまだそんな思いで執筆している。

 仮に鳥谷が〈仕方ない〉と納得しても、このタイミングの通達が現場に水を差さないのか。まだ戦いは1カ月もある。しかるべき時はもう少し先…そう感じる。

 甲子園のスタンドは超満員だった。子ども達が夏休み最後の思い出づくりに訪れたであろう伝統の一戦。(子どもたちがその事実を知っているかどうか別として)。そのホームベンチに、来季構想外を告げられた生え抜きのスター選手が座っている。僕が監督なら、僕が同じベンチで戦う選手なら、やり辛さ、半端ないだろう。

 この日の午後、大阪野田の阪神電鉄本社でタイガースフロント陣による、藤原崇起オーナーへの報告会が行われた。月イチ、定例のものだから緊急性はないのだが、報告内容に〈繊細な案件〉が含まれていたことは想像に難くない。

 なぜ、そんなに急いたのか。

 報道陣に対応した球団本部長の谷本修は「答えはまだ全然出ていない」と語るに留めた。誰も詳細を語りたがらないので、「あんたの記事、事実じゃないよ」と言われればそれまでだけど、もし29日の通達が、都合30日のオーナー報告会に間に合わせたもの-だったとすれば、藤原オーナーがよく語る「現場主義」にそぐわない。鳥谷、そしてチームを最優先に通達のタイミングが選択されたとは感じ取れないのだ。この種の情報が漏れることは阪神フロントも想定内。だとすれば、もっと丁寧に…そう感じてしまう。=敬称略=

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