どんなときも変わらない

 【8月28日】

 先日、デイリースポーツ総務部の女性の話を書いた。年に2~3度しか顔を合わさない彼女が読者の言付けを伝えてくれたのは、夏の甲子園が始まった頃。智弁和歌山ファンを名乗る方からだった。

 実は、あのとき当欄で紹介できなかった言付けがもう一つある。

 「あともう1人…阪神ファンの方から『吉田さんに伝えてもらえますか』と、電話がありました。今の鳥谷選手をどんなふうに見ているか、書いて欲しいそうです」

 鳥谷敬ファンにとっては心穏やかでないシーズンに違いない。矢野燿大体制で心機一転、もしかしたらもう一度、ショートでかつての輝きが見られるかも。キャンプの頃はそんな期待感を抱いていた方も多かったのではないか。けれど、蓋を開けてみれば、ご存じの通り…。かつてなく彼の立場は厳しく、打席数は昨季の半分に満たないままシーズンを終えることになる。(18年=121試合、261打席。19年=56試合、87打席)

 終わってみれば、見せ場は七回だけだった。この夜、甲子園が最も沸いたのは鳥谷が代打に立った一打同点、逆転のチャンス。38歳は凡退し、ファンのタメ息は深くなったけれど、これだけボルテージを高められるのだから、虎党からの〈求心力〉は衰えていない。

 5年契約のラストイヤーだからオフは阪神との再契約交渉が待っている。この席上で鳥谷と球団が互いの思いをぶつけ合い、その結果どんな結論に至るのだろうか。

 先日25日、神宮の最終戦で彼が発した「これが最後になるかも」云々の言葉が物議を醸したそうだけど、そりゃあ、あんなこと言っちゃ、ファンはドギマギだろう。

 ちょっと私的な話を書くと、鳥谷とは、長らく、同じ街、同じ生活圏で暮らしている。だから、普段着の彼をよく見掛けるし、逆に「朝○○の辺りを散歩してましたよね?」なんて言われたこともある。勝負にいく仕事の顔、朗らかなプライベートの顔…このギャップが〈イイ意味で〉極端な選手だし、それが彼の魅力でもあるんだけど、今年に限っては、近寄ればヤケドしそうな勝負師の彼を見られなくなった寂しさはある。

 「僕がタイガースに来てからトリさんのことを『一番凄いな』と感じたのは、毎日メンタルがブレないことです。いつも、同じルーティンで、同じメンタルで、試合に入っていく…。それと、どれだけ活躍しても、逆に打てなくてもそれを試合後、表面に出さないこと。どんなときも変わらず…だから、(鳥谷がチームの)精神的支柱といえるのだと思います」

 17年オフDeNAから阪神へ移籍し、プライベートでも鳥谷と付き合いのある山崎憲晴に聞けば、そんな話をしてくれた。

 僕の「想像」をそのまま書かせてもらうならば、鳥谷敬はモヤモヤしたまま野球人生を閉じないだろう。カラダは元気そうだし、相変わらず、球場入りはチームで一番早い。「どんなときも変わらない」男だから本心が見えにくいけれど、まだ輝ける…そんな闘志を秘めていると思う。=敬称略=

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