虎がよく眠る理由

 【8月24日】

 頭がよくなる睡眠、バカになる睡眠-。そんなタイトルの表紙が気になって、雑誌「PRESIDENT」を買った。「ぐっすり眠れる脳医学」の特集で、これでもかと「睡眠」を掘り下げてある。

 若い頃は徹夜なんてへっちゃらだったけれど、今はもうダメ。睡眠の質が気になる歳なもので、へぇ~と唸りながら完読した。

 同誌の宣伝がきょうの趣旨ではないんだけど、興味深いものをひとつだけ…。

 虎党の皆さん、虎の睡眠時間ってご存じでしょうか??なんと、平均15時間も眠るのだとか。ちなみにキリンは4・6時間、ゾウは3・3時間程度と少なく、しかもほとんど立ちながら寝るという。

 虎など大型の肉食獣は周囲に敵がいないため仰向けで脚を広げてのびのびと眠り、周囲に敵が多い草食動物は安穏と眠っていられないことから、概して睡眠時間が少なくなるそうだ。へぇ~である。

 神宮球場へ向かう列車内でフムフムと「睡眠のフシギ」に頷きながら、かつて睡眠に悩んでいた元虎戦士のことを思い出した。

 「ホント、眠れないんですよ。平均4時間くらいかな…」

 赤星憲広からそんな告白を聞いたのは、12年前の秋だ。

 07年のシーズン最終戦(144試合目)は神宮のヤクルト戦だったが、その試合後、赤星と僕は西麻布で待ち合わせ。ささやかな打ち上げで慰労するつもりが…。

 引退の引き金となった頸部の不安はこちらの想像以上で絶句し、睡眠不足の慢性化が背番号53の選手生命を脅かしているように思えた。03年から3年連続60盗塁をクリアした赤星があの年は24盗塁。小柄な身体に鞭を入れてきた代償は大きく、彼の肉体が攻守でグラウンドに打ちつけられる度に、見ているこちらが嫌な汗をかいたものだ。文字通り満身創痍でありながら、赤星の凄みは、翌年41盗塁して盛り返したことだけど…。

 一年は早いもので、今シーズン神宮のヤクルト戦も残り1試合になった。赤星が守ったセンターに赤星を彷彿とさせるルーキーがいる我が阪神の19年である。

 この夜、阪神新人のシーズン安打記録で赤星を超えた近本光司の凄みは各所で語られる。当欄でそれを書いてくれといわれれば、出場117試合で129安打を称える以前に、「新人にして、一年間ずっと働いていること」と書かせてもらう。身長(公称)は赤星と同じ170センチ。人に言えない体調面の不安があるかもしれないし、よく眠れる夜ばかりではないかもしれない。レッドスターへの「憧れ」を公言するだけに、8月の神宮で放った1本は生涯忘れられない軌道になるはずだ。

 強い。ここにきて敵無しにさえ思える。今年最長の5連勝を飾った矢野虎だから、今なら仰向けで脚を広げて眠れるのでは…なんて書くと、アホかといわれるか。

 強い虎はよく眠る。秋までずっと快眠の夜が続けばいいなぁ。

 ちなみに、動物園のゾウはよく眠るという。敵無しで安心できるから…だそうだ。=敬称略=

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