気持ちを背負えるエース

 【8月22日】

 甲高い、ゲームセットのサイレンが夏の終わりを告げる…この世界に何年いても、ここでフィナーレを迎えると、感傷に浸ってしまう。高校球児の聖地よ、今年もたくさんのドラマをありがとう。

 なんて書いてはみたけれど、感動仕立ての原稿で、キレイゴトを並べるのは性に合わない。勝負事だから勝ち負けは大事。「準優勝おめでとう」なんて祝辞があり得ないことは、敗者が一番分かる。「よく戦ったよ」と労われても、彼らは嬉しくないのだから。

 高校3年を最後に野球を辞める甲子園球児も大勢いる。僕の大学の後輩で、報徳のレギュラーとしてセンバツ優勝を経験した者がいたけれど彼もそうだった。体育会で野球を続けていれば、注目される選手になったかもしれない。でも彼は僕に言っていた。「高校野球で燃え尽きちゃいました…」。

 「甲子園の上」を目指す者にとっては、決勝の勝ち負けは通過点になる。奥川恭伸(おくがわ・やすのぶ)が、「上」を目指す才能たちの最右翼であることは誰の目にも明らかだ。では、果たして、かつて「甲子園の上」を目指した逸材と比べて、奥川のクオリティーはどのレベルなのか。

 甲子園を沸かせた高卒→プロ入りの投手で「一番の才能」は誰だろう。本紙評論家の金本知憲に打者目線で尋ねてみた。大谷翔平か?マー君か?ダルビッシュ有か?そんな名前を出してみると、NPBで「平成最高」の打撃成績を残した金本はこの名を口にした。

 「松坂じゃないかな…」

 果たして、奥川は松坂クラスなのか?プロ野球各球団スカウトの「奥川評」は紙面をご覧いただきたいが、「松坂級」とはあまり耳にしない。ネット裏から今大会の星を追ってきた阪神アマスカウト渡辺亮にいわせれば、奥川の才能は「ナマで見て分かる」ものだという。概して投球の軌道はセンターカメラのTV中継で見たほうが判断しやすいものも多いが、俗にいう「キレ」の有無についてはナマが分かりやすいそうだ。

 技術だけじゃ一流になれないことはプロ野球史が証明している。この期間で奥川の人格までは測りかねるが、同じく本紙評論家の新井貴浩に聞いてみると…。

 「一流になれる素質とエースになれる素質を両方兼ね備えた素晴らしい選手だと思います。球自体も素晴らしいですけど、それ以上にマウンド上での立ち居振る舞いが素晴らしい。メンバー外も含めたチームメートの気持ちも背負って投げているのが伝わりますよ」

 さて、今秋ドラフトで阪神は奥川を1位指名するだろうか。虎のフロント陣もナマ視察していたしこれから煮つまる指名リストの上位に残るのは間違いないけれど、他の逸材と天秤にかけられ、どんな判断が下されるのか楽しみだ。

 当方の見解を示せといわれれば佐々木朗希より、奥川。多方面取材すれば、阪神に奥川を指名してほしい理由がいくつか見つかる。「必笑」がテーマだった奥川が泣いた夏。彼、甲子園がよく似合うと思いませんか?=敬称略=

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