矢野スマイルを見ていたい
【8月13日】
ちょっとした事務連絡があって我が社に連絡すると、電話に出た総務部の女性が和歌山在住の読者からの〈伝言〉を教えてくれた。
「その方、智弁和歌山の応援で甲子園へ行くそうなんですが…」
「『きょう、吉田さんは甲子園へ取材に行かれていますか?』って聞いてこられましたよ」
伝言、ありがとうございます。ちなみに、男性の方でした?
「いえ、女性の方でしたよ」
へぇ~。和歌山の方ですか…。ご用件は何だろう。
「それは分かりませんけど」
あまりツッコむと、いぶかしがられる(?)ので、そのまま電話を切ったが、その聞かれ方は気になるものです。
甲子園、行っております。そうお伝えください…って、遅いか。
普段の浜風とは逆、レフトからライトへ吹く強風に飛球があおれた炎天下の聖地…。気分を変えてみようとチケットを購入し、スタンドから観戦させてもらったけれど、この日も観客を虜にするドラマティックな風は吹いていた。
「運とかツキ…そういうものもあると思う。俺は甲子園で勝ち進めなかった人間だから分からないけど、兄貴の時は、そういうものもあったんじゃないかな。もちろん、努力あってのものだけど」
甲子園で勝ち続けるために、大切なことって何なんでしょうね?
僕のそんな問い掛けに、かつて箕島高校で甲子園を沸かせた右腕で現在阪神チーフスコアラーを務める嶋田章弘(しまだ・あきひろ)はそう答えた。
兄貴の時…そう、嶋田の兄とはご存じ、嶋田宗彦(しまだ・むねひこ)。1979年の甲子園で春夏連覇を成した箕島の正捕手である。弟がエースとして臨んだ84年の夏は二回戦で敗れたけれど、5学年上の兄は甲子園の申し子…。
あの「尾藤スマイル」を肌で感じた伝説の兄弟である。
尾藤野球は、スパルタ指導への疑問から自主性を尊重した「のびのび野球」へ行き着いたとされるが、そうは言っても〈我々の知らない〉普段の練習は厳しかったはず。ずっとそう思っていたので、今更だけど嶋田に聞いてみたのだが、「全然、そんな…」という。
「尾藤さんから厳しく言われたことはないよ。投球に関してもそう。ほんまに、何も言われなかった。だから、家へ帰ってからの自主練のほうがキツかったな…」
まだ鉄拳が当たり前の時代に、自主性…。ちょっと信じられないけれど、教え子の証言に反論はない。
デイリースポーツもとてもお世話になった名将だから、生前の尾藤語録はよく覚えている。
「監督として一番いけないのは変な先入観を持つことだよ」-。
これ、簡単なようで難しい。
先入観の排除…矢野燿大のチャレンジが重なる。
近ごろ、しつこいくらい書いているけれど、「矢野ガッツ」そして「矢野スマイル」を143試合ずっと見ていたい。名古屋を離れ甲子園でそんなことを思う。=敬称略=