抑えろ…でも、打ってほしい

 【5月24日】

 伊丹から羽田行きのANA便に乗りこむと、機内で「風さん!」と声を掛けられた。振り向くと、いつも世話になる旧知の顔だ。かれこれ15年ほどの付き合いになる用具メーカーの担当者だった。

 「どちらへ?」

 「きょうは大和のところへ。風さんは?」

 「あ、行き先は同じなんだね」

 そんな短い会話で別席についたのだが、いつもラフないでたちの担当者が珍しくスーツ姿…。何か特別なことでもあるんだろうか。そんなことを考えながら、羽田から横浜スタジアムへ向かった。

 なるほど、これだったのか…。

 ベイスターズ、タイガースの両軍ベンチ、両軍ファンから温かい拍手が贈られた。大和である。

 先月30日に彼が記録したプロ通算1000試合出場の表彰式が、この日の試合前に行われたのだ。

 表彰式プレゼンターの中に飛行機で一緒になった担当者がいた。久保田運動具店(スラッガー)の和田卓也がその人。阪神では鳥谷敬や上本博紀のグラブを手掛けるなど、プロユーザーからの信頼が厚い人間である。大和も阪神時代からスラッガーと契約を結び、和田に用具を一任。横浜へ移ってからも、密な関係性は変わらない。

 「(大和の)担当はこちら(関東)のスタッフに任せていますが今回の表彰というのは、僕にとって、とても感慨深いですよ」

 現在、大阪の本社で責任ある立場にある和田は僕にそう語った。

 「大和があのまま阪神に残っていたら、どうだったか。誰も分からないですけど、横浜でしっかり地位を築いて、試合出場を重ねている。嬉しい限りですよね」

 大和がFAで阪神を去って2シーズン目。12球団No.1内野手の放出が、我が阪神の世代交代にどんな影響をもたらすのか…当時はそんなことを考えていたけれど、今阪神のショートには、奇しくも大和の背負った0番…スラッガーのグラブを使う木浪聖也がいる。そして大和が慕ってきた鳥谷敬はベンチに。顔ぶれは様変わりした。

 この夜、大和は8番ショートで先発した。阪神バッテリーはもちろん把握していたと思うけれど、実は大和が昨季残した阪神戦の成績が光る。ここ横浜スタジアムでの阪神戦打率は・297。対選別成績を見れば、最高のアベレージである。昨年は阪神戦でよく打ったよなあ。そう伝えると、大和ははにかみながら言うのだ。

 「やっぱり、阪神戦が一番気合入りますしね。色んな意味で…。やりにくさ?(昨年の)最初は変な感じはしましたよ。基本的に阪神の投手とはやったことがなかったので、紅白戦みたいな感じでしたし…。それと、阪神ファンが、僕が打ったときにため息をつくじゃないですか。敵の選手にとってこんな感じに聞こえていたのかって…(これまでの)相手の気持ちがよく分かりましたしね」

 九回、先頭の大和がR・ドリスからヒットを打った。ため息が響く。大和を抑えろ…でも、大和よ頑張れ…。今でも、それが虎党の正直な想いだと思う。=敬称略=

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