ヒントは、蚤のジャンプ

 【5月18日】

 さあ、面白くなってきた。こう書けば、カープファンから「何をエラそうに」と笑われるか。カープは強くなくっちゃ。僕はそう思っているので、連敗は悔しいけれど、ひとまず強がっておこう。

 いずれ上がってくるのだから、これくらいアドバンテージをもらっておいたほうがいい-。カープがスタートダッシュにつまずいた4月初旬、当欄でそう書いた。

 鯉のぼりの季節よろしく5月のカープはこれで11勝3敗1分け。いつの間にか、首位争いのポジションをキープしている。〈いずれ上がってくる〉の根拠を問われれば、3連覇の経験値、分厚い選手層をもちろん挙げるけれど、新井貴浩、丸佳浩の穴=マイナス要素を差し引けば、「これが正解」と書く材料を僕は携えていない。

 スカウティングで好素材を獲ってきて、カープ式の練習、トレーニングでポテンシャルをリミッター無く発揮させる。言葉では簡単だけど、どうすればそうできるかうまく説明できない。むろん緒方カープは結果を出し続けているのだから、そのやり方が正しいし、うまく回っている…ことになる。

 じゃ、昨季最下位の阪神はカープより好素材の選手が圧倒的に少なく、阪神式の練習やプログラムは悪で、不毛なのだろうか。

 前述したポテンシャル(potential)という言葉は当欄でもよく使う。意味は「潜在する能力。可能性としての力」と『広辞苑 第六版』にあるのだが、矢野燿大のチャレンジとは、まさに選手たちの「可能性としての力」をどこまで掘り起こせるか、発揮させるか-であると言い切る。

 今春のキャンプイン前日、矢野は選手全員に向け、「潜在する能力」の話を伝えたことは、色んなメディアで報じられている。人は皆、本来備わっている能力の数パーセントしか発揮していない。眠っている残り数十パーセントの力を掘り起こすことが叶えば…。新チームの船出を控えた夜、指揮官はそんな主旨を語ったという。

 もう一つ、矢野の言葉で興味深いものがある。これは公のコメントではないので初掲載になる。

 4月中旬、某所で開催されたスタッフによる食事会でのことだ。スタッフ会…つまり選手がその場にいない集まりで矢野は「蚤(のみ)の不思議」について語った。

 蚤(のみ)…そう、あの蚤だ。

 体長9ミリ程の蚤は、その体長の150倍もジャンプすることが可能だという。つまり、1・5メートル程の高さまでジャンプできるわけだが、その蚤を高さ30センチの箱に入れて丸一日放置し、翌日30センチの箱から開放してやると、再び1・5メートルジャンプするのかと思いきや、それ以降、30センチのジャンプしかできないまま生涯を閉じる-無限大のポテンシャルを閉じ込める罪深さを蚤のジャンプに例えたのだが、矢野は「選手の潜在する能力」を狭い箱に封鎖しない〈イズム〉を現体制に浸透させている。

 3連覇したカープのチーム方針がこれに近いような気がする。王者を凌ぐ為に邪魔になる箱を矢野は壊し続けるのだ。=敬称略=

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