背負っていくものに対する責任
【5月14日】
JR品川駅の書店で漫画誌「ビッグコミック」(小学館)を買った。愛読誌…ではない。例の騒ぎにつられて同誌を手にとった人も多いと思うが、僕もその一人で、水道橋へ向かう列車内で読んだ。
24日公開の映画『空母いぶき』に総理大臣役で出演する佐藤浩市の発言が炎上している。9日発売の「ビッグコミック」のインタビューに答えたものだというので、全容が気になったのだ。
デイリースポーツも報じているので、発言の詳細は省かせてもらうが、同インタビューで「佐藤浩市が日本国の首相を揶揄した」などとネットで波紋を広げ、作家の百田尚樹がツイッターで佐藤を批判。「三流役者が、えらそうに!!」とまくしたてたそうで…。
佐藤や百田、また、それに反応した著名人、個々のイデオロギーについて、ああだこうだ書くつもりはない。それはそれとして、僕は佐藤が同誌インタビューで語った別のくだりに目がいった。
「これはある政治家の人から聞いたのですが、どんな人でも総理になると決まった瞬間に人が変わるっていうんです。それぐらい背負っていくものに対する責任を感じる、人間というのはそういうものなんですね」-(原文まま)
過去に佐藤を取材したことが一度だけある。といっても、ねっこり話を聞いたわけではない。
あれは02年。阪神監督に就任したばかりの星野仙一の取材でオーストラリアへ飛んだ冬のことだ。闘将が「芸能界の仲間とゴルフをする」というので同行させてもらうと、そこに居たのが、明石家さんまと佐藤浩市だった。「星野さんって顔が広いな~」なんて取材陣は感心していたのだけど、「はじめまして」と我々に挨拶する佐藤が、まあ紳士で、感じのイイ方だったことはよく覚えている。
今回の騒動、そして佐藤発言の全容を読んで星野を思い出した。
どんな人でも〈監督〉になると決まった瞬間に人が変わる-。
総理とプロ野球の指揮官をごちゃまぜにするのは乱暴だけど、僕の知るプロ野球の関係者に聞けば星野が阪神の監督を引き受けた瞬間、「背負っていくものに対する責任」を感じ、縦じまで戦場に立てば、「人が変わった」という。
星野が優勝監督になった03年、阪神は原巨人に17勝10敗1分けと圧倒した。巨人に7つ勝ち越したのは、平成30年間で最多である。(ちなみに、04年の岡田阪神も巨人戦で7つ勝ち越している)
矢野燿大は星野阪神の02、03年の2年間、巨人戦打率・317とやはりよく打った。当時、星野の下で正妻を担った矢野はチーム随一、そのイズムを肌で知る男だ。
「意図的に、星野さんがこう言っていたから自分も真似てそう言おうとか…それはないんだけど、自分で言っていて、あっ、これ、星野さんから言われていたことだな…とか、絶対に入ってるんよ」
矢野は僕にそう語っていた。
人が変わる-。僕にはまだ見えていないだけで、矢野はきっとそう。巨人戦ではとくにそうだと、僕は思っている。=敬称略=