連敗も、祝リーグトップの…
【5月12日】
3点を追う六回、上本博紀が代打で打席に立った。梅野隆太郎が先頭で出塁し、2死三塁となった局面。上本は一度もバットを振ることなく四球。彼の武器が生きることなく、阪神は連敗を喫した。
阪神の盗塁数について、ここ数年、何度となく書いてきた。もっと足を使いたい-なんて説教くさい筆だから、担当コーチにとってはさぞかしイヤみな当欄に違いない。だけど、今年は一度もその手の話に触れていない。なぜって、それはシンプル。盗塁の数が悪くない…どころか、本日セ・リーグトップに躍り出たのだから。
(1)阪神=24
(1)中日=24
(3)広島=22
(4)巨人=20
(5)ヤクルト=17
(6)DeNA=7
これが、12日現在のチーム盗塁ランキングである。
なぜ、上本の話をするか。
それはもう、ファンと同じ目線で、その足に期待するからだ。
読者の皆さんに聞きたい。彼がコンスタントに試合に出続ければ年間いくつくらい盗塁すると思いますか?僕の推察では、ざっと25~30くらいか。キャリアハイは、131試合に出場した14年の20盗塁。年齢を重ねているし、故障も経験したから、やっぱり減る-。いや、僕はそうは見ていない。
前カードのヤクルト戦、上本は神宮球場で人知れず一年前の「恐怖」にサヨナラを告げていた。
何の話か。
ファンは忘れていないだろう。上本は昨季5月5日の中日戦(甲子園)で、二盗を決めた際に左膝前十字靱帯(じんたい)を負傷。手術を余儀なくされ、残りのシーズンを棒に振った。
年が明け、迎えた今年2月のキャンプ。中日とのオープン戦でそれ以来となる盗塁を決めたが、いま改めて上本に聞けば、「やっぱり、キャンプ中はまだ怖さがありました」という。
開幕以来、公式戦での〈解禁〉を待っていたのだが、ついにそれを見られたのが、先日の神宮だったというわけ。初回、得点に繋がる今季〈初盗塁〉に成功。公式戦では368日ぶりのスチールを決め、五回にも二盗を決め、いきなり2盗塁。神宮球場の記者席で鳥肌が立った。
「いざ試合になれば、スタートの体勢が悪くてもスタートを切らないといけないこともあるし、アドレナリンが出れば、予想以上に体に負荷はかかる。それに耐えられれば…。ひとつ決めたことで、相手は警戒するし、チームとしても攻撃の幅が広がりますよ」
三塁コーチ藤本敦士は上本の足をそう評し、目尻を下げていた。
「もう怖さはなかったですよ。できるものだと思ってやっていますからね。お医者さんも『9割9分(膝の状態を)戻してあげる』と言ってくださいましたし…」
上本は僕にそう語った。
彼の足が武器になれば、虎の牙はもっと鋭利になる。セ・リーグのチーム最多盗塁は3年連続で、優勝した広島である。=敬称略=