ドキッとする梅野の打球

 【5月11日】

 きのう、梅野隆太郎について書いた。実に木戸克彦以来の生え抜き正捕手だから、彼を題材にする機会は多くなるけれど、それだけに僕は気になることがある。配球でも、捕球でも、肩でもない。

 彼のアットバット。特に内野へ際どい打球を放った際の〈本能〉について…である。

 この日は投手陣を援護すべく、1打席目と最終打席にヒットを放ち、唯一マルチ安打を記録した梅野だけど、僕の血圧が上がったのは五回先頭で迎えた第2打席だ。

 ドラゴンズ柳裕也の直球を引っ張った打球がショート深いところへ転がると、逆シングルでさばいた京田陽太が一塁へ送球。これが暴投となりEランプが点灯するのだが、ジャンプした一塁手D・ビシエドとの交錯を避けるように駆け抜けた梅野を見て、ちょっとホッとしたりなんかして…。

 「(今年3月の)オープン戦のときに、隆(りゅう)とは、そういう話をしましたよ」

 僕の問い掛けに、バッテリーコーチ藤井彰人はそう答えた。

 〈そういう話〉とは、一塁へのヘッドスライディングについてである。前カード8日のヤクルト⑨戦(神宮)において、梅野は初回に併殺を免れようと遊ゴロで一塁へヘッドスライディングを敢行。貴重な1点をもぎ取った。

 左翼スタンドは大歓声だったし僕も彼のファイティングスピリットに、心で拍手を送った。

 でも、それを見ていた阪神ベンチの思いはどうだったか。

 「そりゃ、冷やっとしますよ。あいつはウチの正捕手ですから。

指をやってしまったり、大きなケガをしてしまったら、めちゃめちゃ痛手ですし。頭からいく(滑りこむ)にしても、指をつかないようなやり方とかあるんでね」

 担当コーチ云々でなく、チームにとって彼に万一のことがあったときのリスクを藤井はいつも案じているのだ。

 「隆に聞いたら、『必死だし、出てしまうんです』というんですよね。僕なんかは(現役時代)ヘッドスライディングなんて下手でできなかったですけど、あいつは結構、得意みたいなんですよ。でも、できればね…。福本(豊)さんはテレビ解説でもよく『危険だから(ヘッドは)絶対にやるな』って言ってますけど…」

 僕の取材歴で「正捕手の」ヘッドスライディング自体はお目に掛かったことはあるが、一塁へのそれは過去あまり記憶にないのだ。

 藤井はもちろん、矢野燿大、城島健司、他球団なら阿部慎之助や谷繁元信…。これは記録部に過去の回数を確認できるものではないので、本人に聞かなければ分からないが、おそらくないのでは?

 代役不在となれば、なるだけリスクは回避したい。ただ、拮抗したゲームでアドレナリンが出れば自然とヘッドスライディングが出てしまう…これも理解できる。

 梅野の年表に堂々と「レギュラー定着」と書いて欲しい19年。彼が際どい打球を放てばドキッとしてしまうのは、僕だけではない。=敬称略=

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