全力坂を思い出す霞ヶ丘

 【5月7日】

 東京メトロ外苑前で降り、オリンピックスタジアムまで歩いてみた。神宮球場からも望める外観は以前より整ってきており、完成が待ち遠しくなる。ここ霞ヶ丘に世界中のアスリートが集うのか…。

 なんて心躍らせながら瞑想していたら、リンとLINEを着信。

 「風さん、元気~?」

 元サッカー女子日本代表、丸山桂里奈からだった。

 「新幹線に乗ってたら、偶然、赤星(憲広)さんに会ってね…」

 わざわざ、その報告??ま、いいけど。あ…そういえばそうか。

 この新しいオリンピックスタジアム、東京五輪・女子サッカーの決勝戦の会場だと聞いた。男子の決勝戦は確か横浜国際競技場だったはず。リアルな話をすれば、日本サッカーのファイナリストになる確率は男子より、女子代表が上である。丸山の後輩なでしこが、ここで世界一!なんて夢のようなシーンが訪れるかもしれない。

 僕が丸山と親交を持ったのは、サッカー担当だったロンドン五輪の12年。ある練習場へ取材へ行くと、愛車で来ていた丸山が「歩いて帰るの?送ってくよ」と、親切にしてくれたことがきっかけだ。

 その前年のドイツ女子W杯では開催国ドイツとの準々決勝で決勝ゴールを挙げるなど、初の世界一に貢献。国民栄誉賞を受賞した彼女の取材を何度となくさせてもらったのだが、印象深かったのは見た目とのギャップ。今では、お馬鹿なキャラで芸能界を生きているし、さらにギャップは激しくなるかもだけど、丸山といえば〈陰の努力〉が半端ない選手だった。

 都内の自宅近くの急坂を「全力坂」と名付け、練習の後、毎日100本の坂路ダッシュを自身に課していた。どんな悪天候でも敢行し、夜中になれば、彼女も女性なので「一人では危険」だと、父親が付き添ったこともあった。

 やはり日本代表になるような選手は自主性を〈貫ける〉のか。近隣の坂路など誰も見ないのだから手を抜ける。それでも一日も妥協せず、夢を叶えたのである…必ず100本ってなかなかできない。

 矢野燿大は「選手の自主性」をテーマに、新チームを引っ張ってきた。取材の限り、2月のキャンプ風景〈見た目〉はヤクルトと対照的だった。キャンプ初日の終了時間は夜8時、6連勤も課したヤクルトである。一方、自主性を重んじる阪神だから必然的に全体練習は短くなる。いかに自身を律し妥協せず、研鑽を積むか。矢野阪神が上位争いをすれば、選手がそれをやってきた証明になる。

 「きょう、雨降るかな?」

 試合前、福留孝介が空を見上げながらそう聞くので「大丈夫。きょうは降らない」と答えると「オッケー」と頷き、グラウンドへ。前夜は先発を外れたが、四回に逆転を呼び込む二塁打、そしてマルチ。自主性の塊…その答えがセ界野手最年長のこの躍動感である。

 「福留さんに宜しく」。球界に知人の多い丸山だけど、中でも赤星と福留は「特別な存在」だという。彼女一流の「全力」の嗅覚が利くのかもしれない。=敬称略=

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