10点ビハインドの心持ち

 【3月17日】

 あれは09年だから、もう10年前になる。新井貴浩ファミリーの食事会に招いていただいた夜があった。ご一緒したのは新井夫妻と2人のご子息、そして弟の良太。場所は名古屋の割烹だった。

 下のボクちゃんはまだ3つ。2つ上のお兄ちゃんよりやんちゃっぽく、パパとママから度々「静かにしなさい」と叱られていた。

 やっぱり、2人の息子さんたちには野球をやってもらいたい?

 当時、貴浩パパにたずねると、「いえ」と首を横に振っていた。

 「この子たちが将来やりたいことをやればいいと思ってますよ。僕から『絶対、野球をやれよ』と言うことはないと思います」

 プロを志すかどうか別として、バットを握れば、周囲から「新井の息子」として視線を注がれる。荒波に放りこまずとも、彼らが物心ついた頃に〈親父の仕事〉に興味を持ってくれれば、それだけで嬉しい。いま察するに、そんな胸中だったような気がする。

 「こんにちは」

 「おっ、来年から中学生だね」

 「はい」

 「野球、頑張るんやな」

 「はい」

 前日16日、偉大な父のラストを見届けた次男はもう12歳。驚くほど精悍になった彼はこの4月から関西の強豪クラブへ進み、硬式野球を始める。昔から凛とした面構えの長男は名門中学で軟式野球を継続し、ともに父の背中を追う…いや、個人的には、野球の技術、力量よりも、「父の心」を追い続けてほしいと願っている。

 さて、ここからはもうひとつの〈家族〉の話である。新井を「お兄ちゃん」と慕うカープ菊池涼介から聞いた「心」について。きのうの続きを書いてみたい。

 カープの〈長男〉が20年のキャリアを顧みたとき、成否を分かつ鍵になっていたものは〈心〉だったという。〈弟=菊池〉にそれを伝えると、こんなふうに答える。

 「高校時代、すべてのことは心から始まると教わりました。例えば、10点差、15点差で負けている試合で守備につくとき、ダルいな…と思うのか、いやいや、まだまだいくぞ!やってやるぞ!と思うのか。その心一つでフィールドへ走っていく姿、オーラも変わると思います。練習、トレーニングにしてもそう。惰性でやるより、心で…。心技体でいうなら、心がアタマ(最初)にきて、技術があったり、体があったりするので…」

 新井が13歳下の菊池をリスペクトし、彼の信念に共感する理由が分かるし、カープが〈家族〉になった根拠を見つけた気もする。

 昨秋、当欄で新井の抜けたカープに注目したいと書いた。「ポカンと空いた穴は大きく、綻びがのぞくのでは…」と行間に滲ませたのだが、とんだ見当違いかも。

 「新井さんは僕にとってやっぱり特別な人。これまで通り接してくれると思いますし、ずっと近くにいるような気がしています」

 菊池は僕にそう語った。

 引退しても、新井の〈心〉はカープを離れない。〈家族〉は強し…今年も脅威である。=敬称略=

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