冬に耐えて、花ひらく

 【3月12日】

 松坂大輔と宮沢りえが湯飲みを手に、満開の桜を見あげている。

 厳しい冬に耐えて

 花ひらく 春が来る

 平成の怪物と 呼ばれた

 その人も また-

 地下鉄名城線で見つけたサントリー伊右衛門の車内広告である。

ナゴヤドームから滞在ホテルへの帰路、藤浪晋太郎を思いながら、記憶に留めたくなった癒やしコピーだ。苦境を乗り越え、復活を遂げた松坂の人生を季節に例えれば…きっと、そう語りたいのだろうけれど、片や晋太郎にとっても、この3シーズンはやはり「冬」だったか。もしそうだとすれば、少し長くなった寒冷期を越すための準備を整えなければならない。

 打者16人に対し、4イニング被安打0。4四死球。これが背番号19が残したこの日の結果。中日の先発オーダーに右打者(両打ちが2人)がいなかったこと、制球について等々は、番記者が本人や矢野燿大を取材し、3面に載る。

 これは晋太郎にとってどうでもいいことだろうけど、ちょっと気になったので比べてみた。晋太郎の「冬」までの成績を松坂と…。つまり、新人年からの3年間である。振り返れば、両者とも3年連続2ケタ勝利を挙げるなど駆け出しの3シーズンは順調そのものに映る。ただ、ひとつ。松坂のキャリアで嗚呼そうだったな…と思い起こすのは制球について。この期間、四球の数では松坂の方が藤浪よりもかなり多いのだ。99~01年の四球は計299個。一方、藤浪の13~15年のそれは計190個。与四球率(投手が1試合9イニングを完投したと仮定した場合の平均与四球)で示すならば-。

 ☆松坂 1年目=4・35、2年目=5・10、3年目=4・38。

 ☆藤浪 1年目=2・88、2年目=3・53、3年目=3・71。

 が、松坂の怪物たる所以はここから。彼は課題を克服し、メジャー移籍前年の06年には与四球率を1・64まで激減させていたのだ。

 試合後、ナゴヤドームの駐車場で投手コーチ福原忍に聞きたいことがあった。晋太郎が沖縄キャンプで志願した投げ込みについて。

 「先日、本人とも少し話したんですけどね。長所を伸ばすのは必要ですし、良いことですけど、基本的に、まずは課題を潰し、クリアしていく必要があると思いますので…。晋太郎が自信を持って投げられるようにならないといけないですし、キャンプではそういう方向性でできればいいと思っていました。人生、そんな簡単にうまくいくものではないですしね…」

 福原の話を聞いて思い出した。そういえば、この日、名古屋の地下鉄で読んだ日経新聞のコラムで井上透(東京大学ゴルフ部監督、プロコーチ)が綴っていた。

 「私は選手の弱点をあぶり出しミスが出やすい箇所はどこか気付かせるのが一番の仕事(中略)長所を伸ばす指導がもてはやされるけれど、トップ選手ともなると長所とは成長の踊り場にあるのが常で、のびしろは案外小さいもの」

 晋太郎だって立派な「怪物」である。彼は春を呼ぶ。=敬称略=

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