「伝統」を失わないために

 【3月10日】

 3月はなるべくファームを見ておきたい。今年は2月の安芸キャンプを取材していない。開幕すれば基本的に1軍帯同するので、例えば小幡竜平や片山雄哉が成長したときに〈彼らの今〉を留めておかなければ、オッサン記者は慌てる。今のうちに若虎インフォの引き出しを増やしておきたい。だから、時間を見つけて平田阪神の現場に顔を出そうと思っている。

 「甲子園に来ないんですか?」

 阪神電鉄本社の幹部から電話があった。冒頭のような理由で…と説明すると、妙に感心されてしまった。それでも、その幹部は「巨人戦ですよ?」という。これは僕の価値観だから読者のそれと相いれなければ申し訳ないが、T-Gでも、プレシーズンマッチを「伝統の一戦」とは呼ばない。時がくれば、ねっこりとその熱気に触れたいと思っておりますので…。

 鳴尾浜球場の観客席で若虎を眺めながら、それでも気になるニュー原巨人。丸佳浩、炭谷銀仁朗の加入。長野久義、内海哲也の放出でどんな化学反応が起きるのか。いずれにせよ、これは読者と共有する願いだから書くまでもないけれど、本番では、とにかく巨人にだけは負けるな!である。前監督の金本知憲に「しつこい」と思われるほど、ここで書いてきた。

 相手は巨人だけじゃないんだ-万一、阪神球団にそんな持論をお抱えの御方がいらっしゃるなら、転職をお薦めしたい。なぜって、その方はプロ野球の〈大前提〉を見誤っているから。プロ野球は興行であり、矢野燿大が語るように至上目標は「ファンを喜ばせること」。9割超(当欄の独断)の阪神ファンが溜飲を下げる〈マックス〉は、どんな瞬間ですか?

 8勝16敗1分け。白星が唯一2ケタに届かなかった対戦別成績…阪神ファンなら忘れない昨季の巨人戦績である。仮にこの数字が逆さであったなら、例え最下位であってもファンの気持ちは…これ以上は書くまい。いや、金本の心持ちを知っているので書けない。

 その金本の師匠といえる存在から連絡があった。文字のないLINE。添付された数枚の画像はリオネル・メッシ。「スペインへ行ってくる」。広島のジム・アスリート代表の平岡洋二から聞いていたので、それがFCバルセロナの本拠カンプノウであることは分かった。現地時間3月2日、世界が認める「伝統の一戦」でバルサが宿敵レアルマドリードに勝利したことが大々的に報じられた。

 スペイン語で「クラシコ」と呼ばれる「伝統の-」の戦績を聞いて驚くなかれ。バルサ対レアルの累計対戦成績は242試合でバルセロナの96勝95敗51分け。カップ戦を除くリーグ戦に限れば、72勝72敗34分け…見事に五分なのだ。

 阪神の813勝1059敗71分け。こちらが日本の伝統の一戦である。勝ち星の差は246。「伝統」の名が…と感じるのは僕だけではないと思う。この日、矢野は会見で言ったそうだ。「巨人を意識する?もちろん、それは変わっていない」。阪神ファンの苦みを背負える将だと思う。=敬称略=

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