北條MVP…矢野の真意

 【2月27日】

 宜野座から那覇空港へ向かう道中、買い物がてら万座ビーチへ寄った。全日空インターコンチネンタルの屋外プールでは水着姿の観光客がはしゃいでいる。気温は25度。快晴の沖縄はもう春…というか、もう初夏の装いである。

 平均20度を下回らなかった陽気な27日間。〈陰とは対の〉陽気な支度を整えた矢野阪神の船出は、30日後に迫る。開幕投手の公表はまだ先でいい。開幕スタメンの選定だって、まだまだ猶予はある。

 矢野燿大はキャンプ総括の共同インタビューで「一番目立った選手は誰ですか?」と聞かれ、一人だけ名前を挙げた。デイリーに限らず、新聞、テレビなど各メディアはおそらくこう伝えるだろう。

 「北條がキャンプMVP」

 実はこの報じ方、矢野の本意とは少しズレがある…ように思う。

 昨秋、若虎がファーム日本選手権を制した宮崎で当時2軍監督の矢野から聞いたことがあった。

 「キャンプで点数をつけたり、MVPを決めるのは、個人的にはあまり好きじゃないな。選ばれた本人はいいけど、俺としては(チーム)全体で見たいわけでさ…」 あれから3カ月経ち、立場が変わって迎えた春。恒例の質問が飛んでくることは想定できていた。

 「キャンプMVP?今も好きじゃないよ(笑)。新聞やテレビで見る人は『この選手が頑張ったんだな』いうのは分かりやすいと思うし、伝える側(メディア)はそういうものも必要だと思うから答えるけど、ほんまに必要なのかな…とは、個人的には思ってる」

 梅野隆太郎の一本締めで打ち上げの輪が解けた正午過ぎ、僕の問い掛けに、指揮官はそう答えた。

 ただし、である。北條を名指ししたことは、リップサービスでもメディアへの過度な配慮でもないことは覚えておきたい。それどころか矢野にとってキャンプMVPとはまた次元の異なる重み…意義深い指名だったと、僕は感じる。

 かつて野村克也が「軸になる選手が一人いれば監督は楽なんだ」と語っていたけれど、これに同調する矢野の胸には北條がその担い手に成長する予感があるという。

 「メンタル面も含め、声の掛け方とか…。練習に対する気持ち、うまくなりたいとか、自分のことも考えながら、ジョー(北條)自身、そういう部分も意識できていると思うし、ステージがまた一つ上がっているんじゃないのかな」

 今キャンプの実戦打率・524も確かに素晴らしいけれど、矢野にとっては、この数字以上に嬉しい手応え…野球選手として、人間として成長を遂げる北條の姿を何らかの形で発信したかったのではないか。「賞」のタイトルはきっと何だって良かったんだと思う。

 「昨年苦しんでいたあいつの姿を見ているからさ。ジョーにとっては今回が最初の上昇じゃないやん?一度、落ちてからはい上がってきているからさ…。あいつは強いんじゃないかと思うよ」

 矢野は僕にそう語って宜野座を後にした。北條史也が阪神の軸になる日。陽気で熱かった沖縄が起点になればいいな…。=敬称略=

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