デイリー新井の第一声
【1月9日】
新井貴浩が神戸市中央区のデイリースポーツ本社にやってきた。すでに元日紙面でお伝えした通り、今年から本紙評論家に加わってもらうことになり、この日はいわば我が編集局との〈顔合わせ〉。花束を手渡されるとバッターボックスでは見せない柔らかな面持ちで「新井です。皆さん、よろしくお願いします」。彼らしい、まっすぐな挨拶が社員の心を打った。
デイリー代表取締役社長の改発博明から「是非とも、彼と一緒に仕事をしたい」と聞いたのは、新井が引退を表明して間もなくのことだった。社命を受けた昨秋、僕はすぐに広島へ飛んだわけだが、実はちょっぴり不安もよぎった。
新井の阪神在籍時代、我が社は1面で辛辣な見出しもつけたし、当時虎番だった僕が「4番失格」と書いたこともあった。「デイリーの評論家?お断りします」といわれれば、交渉はそれまで。広島・並木町のレストランバーで「きょうは大事な話があって」と、普段とは180度違うトーンで切り出したものだから、彼も「何?何?」と身構えたわけだけど…。
「ありがとうございます。すごくありがたいお話です。シーズンがすべて終わってから、お返事させてもらってもいいですか?改発さんによろしくお伝えください」
付き合いが長いのに、初めてデイリーの印象を聞いてみたり…。
「いい記事を沢山書いて貰いましたし、悪い印象なんてない」
そんなこんなで日本シリーズの後、新井から電話をもらった。
「風さん、お世話になります」
「えっ…?ということは、そういうことでいいのかな?」
ウン十年ぶりに志望校の合格通知をもらったかのように、「ありがとう!」と、冗談抜きに声が裏返ってしまった。もちろん、改発も喜んでおり、2月のキャンプから我が紙面に登場してもらうことになった。広島、阪神はもちろんセ・パの野球を〈新井目線〉で語ってもらいます。お楽しみに。
さて、3年目になる『取材ノート』も19年の第1回。お題は…と考えてみたけれど、ここはせっかくなので新井との会話から。
「トリは今年何歳になるんでしたっけ?38歳?今の時代、まだまだ老け込む年じゃない。もう一回ショートをやるんですよね?」
東京ではスポーツ各紙がこぞって「吉田沙保里の引退」で1面をつくった9日、デイリースポーツの1面は「鳥谷 特権返上」。国民栄誉賞の世紀の決断を中面に追いやり、鳥谷敬がキャンプ初日から若手と同じメニューで正遊撃手を争う決意を取り上げた。
昨年11月の当欄でエラそうに書かせてもらった。「なぜ、鳥谷は安芸へ行かないのか」と。阪神の常識ではあり得ない大ベテランの秋季キャンプ参加だけど、鳥谷はそれくらいの覚悟があるはずじゃないか-。僕にとやかく言われるまでもなく、背番号1はもう一度泥にまみれる腹構えがあった。
「トリならやれます」。
そう言い切る本紙新評論家。新井貴浩が宜野座を訪れる2月某日を楽しみに待ちたい。=敬称略=