藤浪晋太郎のために…

 【6月15日】

 仙台へ来た。ご存じ、金本知憲にとって大学時代を過ごした第二の故郷である。札幌から移動後、昼間は通い慣れた洋食屋さんへ。現役時代ここで食べるとよく打った。験を担いだわけじゃないけれど、やはり縁起のいい店である。

 この日、金本は随所でバントを命じた。送りバントにドラッグバント…。本来はバントを好まない指揮官だ。就任当初はよくそのワケを話していたが、やはりそれもチーム状況による。くどいようだけど、チーム打率はセの最下位。強行より確実に…そんな将の悩ましさがタクトに出ているように思う。それにしても、どうだろう。今年はバントが多いかな…そんな印象があったので、試合中、本紙の記録部に問い合わせてみた。

 ここまで阪神のバント企図数は「51」だという。この数字、セ・リーグでいえば4番目だから、多くはない。ちなみに最多はヤクルトの「75」でダントツだそうだ。

 重視されるべきは、バントの数ではない。何度〈試みる〉かではなく、何度〈成功させる〉かである。成功率をみると、阪神はリーグ2位の・765。では1番は?ヤクルトで・800だという。企図数、成功率ともにセのトップを走り、これが交流戦進撃の陰に隠れたひとつの勝因といえそうだ。

 W・バレンティンや青木宣親、山田哲人といった主軸が計算できるだけに、キャンプ、そしてシーズン中もずっと小技の向上を徹底してきたチーム方針が、ここへきて奏功しているのかもしれない。

 試合前から降り続く雨、ドリス不在。そして何よりも、藤浪晋太郎に初星を。是が非でも先制を。そんな気持ちが戦術に映る夜だった。二回から5番の陽川尚将がバント…楽天捕手の嶋基宏は「え?」という顔をしていた。六回は山崎憲晴が移籍初の犠打を決め、この走者を中谷将大の一発で返して決勝点。援護点を守るべく藤浪の制球は要所で安定し、降板した七回まで一度も先頭出塁を許さなかった。勝つべくして勝ったのだ。

 金本が藤浪に寄せる思いを書きたい。あれは巨人との開幕戦を6日後に控えた3月24日のこと。オリックスとのオープン戦(京セラドーム)。外野で調整する23歳のもとへ金本が歩みよったのは、その試合前だ。ベンチ前の取材エリアから口ぶりは読めなかったけれど、両者は真剣な眼差しで語り合っていた。開幕2戦目の先発を告げたのは、実はこのときだった。 「正直、お前を楽なところで投げさせて、調子を取り戻してほしいという考え方もあるんだけど…俺はそうはしたくないんよ。あえて責任あるところで、このチームを背負うくらいの気持ちで投げてほしい。開幕戦は菅野が相手。全力で勝ちにいくけど、どうなるか分からん。俺は開幕2戦目は死んでも取りたいと思ってる。だからその試合を、お前に任せたい。チームを背負って投げてくれんか」

 金本に聞けば、あのとき藤浪はすごくいい顔、輝く目つきをしていたという。紆余曲折あったけれど、金本が藤浪へ寄せる信望はずっと変わっていない。=敬称略=

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