キャプテンマークのゆくえ

 【6月10日】

 カンヌ国際映画祭で最高賞に輝いた「万引き家族」の監督、是枝裕和が連日メディアに登場している。映画祭なんて運動記者には無縁の取材だけど、実は一度だけその雰囲気を味わったことがある。 あれは1999年。当時サッカー日本代表の名波浩を追いかけてイタリアへ飛んだときのことだ。欧州挑戦で名波が移籍したのはACヴェネツィアというセリエAのクラブだったのだが、ある日、女優・宮崎美子が名波を激励訪問。何でも黒澤明脚本の映画『雨あがる』がヴェネツィア国際映画祭で賞を獲得したとかで、寺尾聰とW主演の宮崎がスタジアムへ立ち寄ったというわけだ。水の都は映画祭一色…いつも鈍感な僕の五感が刺激された、いい思い出である。

 いまのキミは~ピカピカに光って~ いや、オジサンに分かってもらえればいい。きょうの主題は映画祭でも昭和女優でもない。

 さて、いよいよロシアW杯が始まる。日本が初めてW杯に出場した20年前、98年フランス大会でエースナンバー10番を背負っていたのが前述の名波だった。彼といえば、独特なリズムで中盤を組み立てるレフティーだけど、この男で思い出すのは、フランスW杯後に就任した指揮官との軋轢だ。

 「彼は一生、キャプテンにはなれない選手だ」-。02年日韓W杯に臨む日本代表を率いたフィリップ・トルシエはそんなふうに名波を酷評した。この人のエキセントリックな物言いには慣れていたけれど、それにしても…。と、思っていたらトルシエは発言後のアジア杯で名波をキャプテンに指名。見事優勝を飾り、背番号10はMVPに輝いた。もちろん、トルシエは名波に称賛を惜しまなかった。

 学生ならともかく、プロ野球におけるキャプテンって何だろう。阪神では和田豊政権の12年に導入され、初代は鳥谷敬と藤川球児が務めたわけだが、当初はイマイチその意図が分かりづらかった。いつだったか。阪神の現キャプテン福留孝介に聞いたことがある。今の阪神におけるキャプテンの条件とは、一体どんなものなのか。

 「まず、このチームで絶対的なものを持っていることだと思う」

 福留はためらわずに言ったけれど、自分がそうだとは言わなかった。では誰か。「トリですよ」。それも、ためらわずに言った。

 「トリが阪神でやってきた功績は、選手だけじゃなく、ファンも認めていること。絶対的な存在という意味では、本来は、僕よりもトリがつけるべきもの。生え抜きでも何でも育ってきた選手へ、トリからまた渡してほしいと思う」

 そう話す福留の矜持を見たこの日のロッテ戦だった。初回のセーフティーバント。六回の先頭打。七回のスーパーダイビング。そして八回の悔しがり…。その姿こそキャプテンシーであり、絶対的なもの…きっとそうなんだろう。何も一試合限定のハナシじゃない。 金本知憲が41歳にいつまでも頼りたくなるはずである。「C」は預かりもの。鳥谷に返すまでは汚せない。福留の振るまいにそんな自負心をみる。=敬称略=

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