年間マイナス54個の損失

 【6月3日】

 球場へ向かう前に東村山に寄った。宿泊先の立川からJR中央線で国分寺へ。さらに西武国分寺線で4駅いくと、懐かしい景色が広がる。駅前は一昔前とガラリと姿を変えたけれど、20分も歩けば、勝手知ったる第2の故郷。昔は自転車でこの田んぼ道を走りまわったなぁ…なんて、ここへ来る度、ノスタルジーに浸ってしまう。

 毎夏の楽しみは西武園の花火大会、そして遊園地。お化け屋敷は都内でも有名で…。30数年前のアルバムをめくれば、ライオンズブルーの西武帽をかぶる僕がいる。

 タイガースで唯一、この気持ちを共有できる選手がいる。東村山市出身の鳥谷敬である。幼い頃は同じような、長閑な田園を見て育ってきたのだ。東村山警察署の武道場で柔道を習った少年時代、都内でも屈指の腕前で確か8強…この種を書き出したらキリがない。

 そんな郷愁を巡らせながら3日間通った西武球場、いや、メットライフドーム。この週末はライオンズへのそれを凌ぐ大歓声が鳥谷へ注がれていたように思う。直前に歴代2位の連続試合出場が途切れたこともあるのだろう。まだ、まだ頑張れ!と、彼を後押しするムードは明らかに高まっている。

 マウンドに視線が集まったこの日の試合だけど、のっけから興ざめしたのは、ジャッジのミスだ。初回、山川穂高のハーフスイングは塁審に確かめるまでもなく明らかなスイング。両軍と双方ファンにも失礼なミスジャッジはもうなくしましょうよ。虎側から書けば負け犬の何とかか…後味が悪い。

 さて、気を取り直して…きょうはそれこそジャッジの話を書く。いま一度、鳥谷である。記録の節目ゆえ、改めて彼の存在意義を確かめたい。この日、四死球で出塁した1、2打席を眺めて思う。鳥谷不在によって被る、このチームの損失は何か。皆さん、今年の猛虎、四球、減ったと思いません?ちょうど50試合を終え、チームの四球数は182。昨年が50試合で201なので、仮にこのペースでいけば年間54個減る計算になる。

 鳥谷といえば選球眼。そのくらい、ボールの見極めに長けた選手といえる。鳥谷は10年から17年まで8年連続でチーム最多四球を記録してたって、ご存じ?これ、実は阪神では7年連続(03~09年)の金本知憲を上回る“球団最長記録”だそうだ(本紙記録部)。だから、鳥谷がオーダーにいれば当然「繋がる」機会は増える。四球はヒットと同じ。いや、四球の方が敵軍のダメージは大とも聞く。

 これが、なぜ、ジャッジの話なのか。読者の方もよく知る逸話がある。その昔、王、長嶋が見送れば「ボール!」。そう判定された時代があった(実際あったと思う)。所謂「王ボール」「長嶋ボール」というやつだ。鳥谷の四球数は現在、そのミスターの上をいくプロ野球歴代15位…。(ちなみに金本のそれは歴代3位)。

 トリが見送れば、ボール。この域まで達すれば、審判は「ミスジャッジ」とはいわれない。「トリボール」。後々、きっと粋なジャッジと伝わるはずだ。=敬称略=

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