「野球が大好き」になる指導法

 【6月2日】

 打率・277-。現在、この数字を上回る阪神の打者(規定打席到達者)は2人、糸井嘉男と糸原健斗のみである。実はこの成績、西武の…いや、個人のものではなくライオンズのチーム打率。もちろん、12球団のトップの数字だ。

 パ・リーグの打撃10傑に4人。15傑だと6人も西武にいる。この日は虎打線が獅子のそれを凌いだけれど、それにしても、ここの打者ってなんでこんなに打つの?

 出た。山川穂高の2発…。一時は逆転弾を右翼へ。七回は左翼へ長滞空のアーチ。普段このチームを見てないし、辻西武のキャンプを取材したこともない。だから通称「山賊打線」の根拠は、この機会に即席取材するしかないのだ。

 ライオンズの打撃部門を預かるのは、嶋重宣。かつてカープで首位打者に輝いた、ご存じ「赤ゴジラ」である。現役時代は、奇しくも金本知憲が阪神へ移籍した翌04年に覚醒し、広島で首位打者、最多安打に輝いた男。そんな嶋コーチにぶっちゃけ聞いてみた。

 なんで、そんなに打てるの?

 「どうですかね…」。答えにくそうだったので、角度を変えて。嶋が考える有効な指導とは??

 「指導?何もしてないですよ。哲学?何もないです…(笑)」

 そんな、アホな…。嶋は14年から2年間、西武の2軍コーチを歴任。そう、新人時代の山川の良き相談相手にもなっていたという。

 ほら。若い選手への指導法とか…いろいろ、あるでしょ?

 「チームの戦術としてこういうことをやらなきゃダメ…ということは言います。でも、技術的なことは基本的に何も言わないです。2軍コーチ時代も?はい。誰も、何も言いません。技術論って、当の選手が欲しがっていないときに言っても、絶対にプラスにならないと思いますよ。仮に僕らが言ったところで、選手は聞いてませんから(笑)。耳に入らないです」

 そういうもんなのか…。

 「皆、プライドを持ってこの世界に入ってきます。そのプライドを一度ズタズタにする必要はあるんですけど、そうする為に一番効果的なのは、僕らがああだこうだいうより自身が試合で打てないことなんです。自分がやってきたこと、やっていることって、こんなものなんだ…と分かれば、聞く耳を持つ。どうやれば高いレベルで打てるのか、と。そうなったら、皆必死。聞く耳を持つまでは、技術的なことは何も言いませんよ」

 そういえば糸井嘉男にこんなエピソードがある。若き日本ハム時代、打撃コーチ大村巌から毎日のようにダメだしされた糸井は、あるとき言い返したそうだ。「ダメばかり言われたら本当にダメになりますよ。たまには褒めて下さい!」。以後、大村は技術指導の一方通行を反省。「しつこく言わない。叱らない」ことを肝に銘じ、糸井を一流に育てたそうだ。

 嶋に聞いてみた。山川はなぜここまで打てるようになったのか。

 「彼は自らひたむきに、休まずバットを振ります。それは彼が野球が好き、バッティングが大好きだからなんです」-。=敬称略=

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