お化けに遭わない「超積極」性

 【3月16日】

 筑後でいいものを見させてもらった。この日、僕は朝一番の飛行機で福岡へ飛んだ。ランディ・メッセンジャーが静岡で開幕テストに臨むことは分かっていたけど、予定通り、矢野タイガースの初陣を優先することにした。ソフトバンクとのウエスタン・リーグ開幕戦は報道陣、関係者が溢れ、プレスルームは満員御礼。仕方なく強風吹きすさぶスタンドから試合を観ることにしたのだが、僕にとって実に収穫の多いゲームだった。

 ホークスのウエスタン開幕投手は千賀滉大だった。侍ジャパンのエースであり、昨季の日本シリーズ開幕投手。プレーボールの前、阪神2軍監督の矢野燿大はスコアボードにたなびく球団旗を眺めながら、自虐的に笑っていた。「この風やからな…。お化けフォークバンバン落ちるんちゃうかな」。

 いわゆる、開幕投手の「調整登板」というやつだ。この日はソフトバンクの1軍は試合がなかったため、(静岡でメッセ、楽天開幕投手の則本昂大が登板したように)3・30の開幕戦から間隔を逆算すると、ここで投げるのがベストなのだ。千賀にとっては「試投」かもしれないけれど、1軍切符を争う若虎にとってはたまったもんじゃない。マジかよ…誰だってそう思う。でも、彼らの振る舞いはそうは見えなかった。ここで詳細を書くとファーム担当の仕事を奪ってしまうので、僕は「対千賀」の序盤戦にフォーカスしてみる。

 矢野がキャンプからファームスローガンに掲げてきたのが「超積極的」。その看板に偽りがないことは序盤で十分伝わってきた。軽くプレーバックしてみると…まず初回、先頭の植田海が〈初球〉をたたきつけて千賀のグラブをはじいた。内野安打で出塁すると、続く島田海吏も〈初球〉をたたき、レフトへクリーンヒット。二回は先頭の北條史也が1ボールから〈ファーストストライク〉を痛烈にレフトへ運び……書き出せばもうキリがないのだけど、「打」も「走」も一貫してイケイケだった。

 さらにこの回、犠打で二塁へ進んだ北條は、捕手が千賀のフォークを手前にはじくと、躊躇なく三塁を陥れた。この記述だけでは伝わりにくいが、迷っていれば際どいタイミングだった。1点を追う三回は植田が〈初球〉セーフティーバントを成功させ、島田はエンドランのかかった〈初球〉を左中間へ運んで同点。さらに板山の打席では、ダブルスチールを敢行。二塁走者の島田は三塁で憤死したものの、モニターでスロー映像を見る限り、セーフに見えた。

 もちろん、力がなければ積極性も叶わない。けれど、少なくとも「矢野の野球」はこうありき…という「哲学」ははっきり見えた。

 「それは、どこかではあるんだけど、やってきたことの延長…という気持ちの方が強いかな。(相手投手が)千賀だったというのは一生忘れないと思うけどね…」

 矢野に「開幕」への特別な意識を問うと、そんなふうに返ってきた。お化けフォークを決め球にさせない野球。矢野の色彩が寒空に映えた船出になった。=敬称略=

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