「捕手心」をくすぐられない左腕

 【3月4日】

 博多で過ごした前夜、金本知憲から少し聞いていた。「明日が楽しみだな。あの球を試合で投げられたら、おもしろい。まっすぐも変化球もいい。特に左バッターは打てないと思う」。褒めるのは初めてじゃない。金本の惚れ込みようは既にファンにも伝わっていたと思うが、ついにその宝石が我々の前でベールを脱ぐときがきた。

 「あれっ?風さん、きょうはヤフオクドームへ行かなくていいんですか?高橋、投げますよね」。朝からタマホームスタジアム筑後でファームの練習を見ていると、阪神2軍バッテリーコーチの藤井彰人から鋭いツッコミが入った。

 前日に続き、この日も教育リーグ「ソフトバンク対阪神」を取材させてもらった。同じ福岡、同じ日程で鷹虎の1、2軍が2連戦を行う。このパターンは今年最初で最後になるのだが、僕はヤフオクドームへは行かなかった。1軍で見たいものはある。でも2軍監督矢野燿大からもっと話を聞きたい…そんな欲求がまさったので、2日間、筑後へ来た。キャンプ中叶わなかったファーム取材。ウエスタン・リーグ開幕を間近に控え、この機会を逃したくなかった。

 「きょうは何かある?」。タマスタのベンチで矢野に挨拶すると選手のウオーミングアップ中に取材に応じてくれた。聞きたかった「捕手論」。そして、新人左腕のこともたっぷり話してもらった。

 2軍の試合が始まってほどなくすると、ヤフオクドームで取材する番記者からLINEが届いた。

 「高橋が四回から登板です。バッターが皆、押されています」。

 先月、僕はファームの安芸キャンプへ行けなかった。だから、ルーキー高橋遥人(たかはし・はると)の投球をナマで一度も見ていない。金本は打者目線で「打てない」と言っていた。ならば、捕手目線の矢野の印象はどうだったのか…。今さらではあるが、安芸キャンプの「評価」を確かめてみると、矢野はこう語った。「今のウチでいうと左投手で一番強いボールを投げると思う。カットボールもいいし…。きょう?いや、打たれないんじゃないか」。えぇ??オープン戦とはいえ、ソフトバンク戦ですよ。金本も、矢野も、ちょっと褒めすぎじゃないのか…。

 「あれはエグいです。あのボールはエグい。エグいっすよ」。何回言うねん…とツッコミたくなっるほど、もう一つの捕手目線、男前藤井もベタ褒めする。そう、そう。投手目線で、同じ左腕のこの人にも聞かなきゃいけない。

 「少なくとも、僕のキャリアで見てきた投手の中では…これくらいの素材ですよ」。現役時代メジャーリーグも経験した2軍投手コーチ高橋建は指を3本折って、その「エグさ」を表現した。

 高橋遥人がヤフオクドームで2回を投げ、無安打無失点(内容は番記者の記事をご覧ください)。彼こそ「捕手心(ごころ)」をくすぐられる投手では??矢野にそう尋ねると、「いや…」と首を傾けた。「あの球を投げられたら、捕手心はくすぐられない…」。この評価が一番エグい。=敬称略=

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