羽生結弦『執念』の連覇

 【2月17日】

 平昌からLINEが届いた。宜野座の記者席でタイガースのシート打撃を見ていた昼の2時過ぎ。添付された動画は表彰台に立つ羽生結弦…心なしか、画像は少しブレていた。普段はとても絵文字の多い人なのに、記された文面はたった一言、「ありがとう…」。

 このコラムは「ある関係者」という表記では書かないことに決めている。だけど今回は五輪の制約があってどうしても、LINEの相手をここで紹介することができない。「この大会がすべて終わったら書いてほしい」とのことなので、今は伏せるが、平昌で羽生のサポートを担い、寄り添っている僕の知人は感涙していた。

 宜野座の観客席でもあちこちで「羽生が金やて!金メダルやて」と、関西から来たと思しき虎党から大きな歓声があがっていた。

 「羽生選手、勝ったんですね。凄いですね…。どんなメンタルなのか、覗いてみたい気がします」

 僕が長々と平昌とスマホでやりとりしていると、球団本部長の谷本修が隣席でそう言った。

 確かに、彼のハートの内部をじっくりと覗いてみたい。世界のツワモノが絶対に勝ちたい大舞台でさらにその上をいくメンタル。故障明けという重すぎるハンディを負いながら、満点に近い、ほぼノーミスの演技で勝ちきる精神力。どうやれば、その域までたどり着けるのか。長年一流アスリートを取材してきていつも感じることだけど、これはもう僕のような人間には想像が及ばない世界である。

 メンタルはどうやって鍛えればいいのか。谷本に意見を求めてみると、「私に聞きます?」と笑われたが、少し考えた後「自信と経験じゃないですか」と答えた。続けて「一流選手というのは、どれだけ練習しても不安だから、まだ足りない、まだ足りない…と、不安を消すために練習を重ねるのではないでしょうか。金本監督もそういうタイプだったのでは…」。

 金本知憲から「俺はびびりよ」と聞いたことがある。「言い方は分からんけど、トレーニングもバットスイングも、続けてやらないと落ち着かないというか…。そういう思いはあったよ」。練習で本物の力をつけ、自信を携えることでどんどんメンタルが鍛えられる…にしても、誰にも負けない力を維持するのは並大抵では…そんな話をしながら、金本にあの年のことを聞いてみたくなった。

 「確かに、それは思ってたな。結局あの年は指をケガしてしまって…。26本に終わったんだよな」

 虎が前回優勝した05年、40本塁打を達成した金本は実は翌06年も40本超えを狙っていたという。指の靱帯を損傷し、まともにバットを握れなかったシーズン。それでも再び大台に挑み…。そんな経験がまた大きな「自信」となって強靱なメンタルが身についていく。

 「人生設計の中でやっと中間点くらいにきている」。羽生は連覇の後、そう言ったそうだ。ただただ、感服…。そうそう、羽生に寄り添う人がLINEの最後こう綴っていた。「勝ちたいという『執念』を感じました」。=敬称略=

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