羽生の美技より、江越の右

 【2月16日】

 「来客」の多い一日になった。楽天戦の30分前から宜野座の最上段席に陣取っていると、「顔見知り」が入れ代わり立ち代わり…。隣席に腰掛け、15分ほどすると「じゃあ、また」と去ってゆく。なぜか沢山の人を招いてしまった。

 「風さん、見ててください。今から右の江越ですから。右の彼は打ちますよ、ホームラン。僕、彼の一年目のキャンプを見た後、すぐ25番のユニホーム買ったんですよ。あれは天性。右打席の江越はね……あぁ~。ほら!いったでしょ!だから、言うたんですよ!」

 吉本興業の芸人で大の虎党「山田スタジアム」は興奮していた。「満を持して」沖縄入りしたそうだが、僕の横に座るなり「江越はやる!」。その予言通り、江越大賀は2度の左打席で凡退した後の3打席目。右打席の打球は左中間フェンスを軽く越えていった。もちろん、山田はドヤ顔である。

 僕が山田と知り合ったのは彼がまだ「ストリーク」というコンビで活動していた時代。かつてイチローが楽屋を訪ねたこともあるほど球界での人脈も広い男である。ダウンタウンが1期生にあたるNSC大阪の15期生。「業界入り」が僕のデイリー入社と同じ95年だから、親しみを感じている。

 「明日のデイリーさんの1面は…。羽生選手は素晴らしいんやけど、ここは江越で…(笑)いや、ロサリオでいきましょか。売店に並ぶスポーツ5紙は『羽生』『羽生』『羽生』『羽生』ときて…」

 完全に編集長になりきっていたけれど、彼も長年のデイリー愛読者だから紙面予想も玄人…。山田によれば芸人仲間にも虎ファン、デイリーファンは多いという。

 「カープの3連覇なんか絶対に見たないから、ほんまに今年は阪神が…デイリーさん、よろしくお願いします。じゃあ、また…」

 山田が去った後、今度は、そのカープで虎担当スコアラーを務める玉山健太と話をした。スイッチヒッター江越をここまで見てきて感じていること…本音はこうだ。

 「スイッチにして右の良さまでなくなったかな…という見方をしていました。この一発で吹っ切れるかどうか。また見ていきます」

 スマホで五輪情報を確認していると、お次は「アンダーアーマー」のスタッフ喜田剛(元阪神、広島など)が隣に座った。「羽生、見ました?1位でしょ」。何でも羽生本人が同社のウエアが大のお気に入りだそうで(実際に着用)今大会も注目しているという。その喜田もスマホとグラウンドを交互に見ながら、やはり江越を気にしていた。「右打席を良くする為に左に取り組んでいるんですかね…」。理由はひとつじゃないと思う。行き着くところ江越という逸材が敵軍にとってどれほど嫌な存在になれるのか。チームにとってそこが大事な要素なわけで…。

 ドラフト直後の江越を取材した夜があった。プロでの目標を聞いたところ、彼は語っていた。「いつかホームランのタイトルを獲りたいと思っています」。この日の弾道を見れば、それが夢物語じゃないと誰もが思う。 =敬称略=

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