登板直前に姿を消した007

 【2月7日】

 藤浪晋太郎が大歓声に迎えられマウンドに上がった昼2時前。スコアラーエリアにいるはずの男は三回裏を待たず、レンタカーを飛ばして那覇空港へ向かっていた。

 「お先に失礼します。これから夕方の便で日南へ行ってきます。僕がまた宜野座へ戻ってくるのはチームが沖縄入りする2月中旬ですね。では……。あ、新井さんにはよろしく伝えておきますね」

 カープの阪神担当スコアラー玉山健太が三回表で姿を消した。あれ~?と思って電話してみると、そんな返事…。2月1日から1クールと1日半、宜野座のメイン球場、ブルペンをくまなくチェックしていた彼は8日から1週間ほど阪神をノーマークにするという。自軍のキャンプ地での業務があるそうだ。それにしても、18年初の紅白戦で藤浪の登板直前に席を立たなくても…。無関心なの?

 「いえいえ、そんなはずないですよ。藤浪投手のブルペンはずっと見ていました。昨年との違いは(ボールが)指にかかる率がすごく高くなっていることです。ただね、藤浪という投手はブルペンでどうこうではないと思いますし、今の時期にあれこれ判断しても仕方ないクラスの投手というか…。本番に近くなって仕上がってきたらきちんと見ていきますよ」

 僕が以前カープを担当していたこともあって、玉山とは旧知。あれこれ本音で話す機会も多いけれど、彼は藤浪を軽視するどころか声色のトーンは「警戒」のステージを高めている感じさえした。

 早いもので、12年に甲子園春夏連覇をやり遂げた怪腕はプロ6年目を迎える。ご存じのように新人から3年連続で2桁勝利したプラチナだが、その後2年間は失速。とりわけ3勝(5敗)に終わった昨季は野球人生を左右する分岐点にもなりうる。周囲の見る目が変わっていくのも確か。ただし、敵軍の中には「藤浪だけは起こしたくない」「眠っておいてくれ」と願うチームがある。その最たるが玉山を派遣する連覇中の王者だ。

 こんな数字が残っている。

 昨年の藤浪は広島戦に2試合投げて0勝1敗(防御率8・31)。一昨年は同1勝4敗。つまり、彼はこの2年間でカープに1勝しか挙げられていない。もともと鯉アレルギーなのか…いや、その逆である。彼が新人から3年間で最も勝ち星を稼いだチームがカープなのだ。毎年2桁勝った13~15年は広島戦で計9勝。これが対戦別では最多(対DeNA7勝、対ヤクルト7勝、対中日5勝、対巨人3勝)だった。藤浪がトンネルから抜け出せば最も嫌がるチームは…あまり書くと玉山に怒られる。

 この日の結果は番記者の原稿を見てもらうとして、カープの007にとって藤浪の初登板は「偵察の対象外」だったようだ。個人的には打者に投げる姿を見られたことで十分。確かに指にかかった直球が印象的だったけれど、それすら玉山は見ていない。まあ滑走路には興味がないのだ。ただし、翼を広げた途端、躍起になってマークを強める。王者にとって藤浪とはそんな存在なのだ。=敬称略=

編集者のオススメ記事

吉田風取材ノート最新ニュース

もっとみる

    スコア速報

    主要ニュース

    ランキング(タイガース)

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス