よっちゃんへ贈る「ギフト」

 【2月6日】

 兵庫県三田市で育った僕の家族は、実家がご近所だった故人を「よっちゃん」と呼んでいた。だから、僕もいつの間にか「よっちゃん」と呼ぶようになり、人気ヒップホップグループのリーダーなんだけど…とても親近感をもって楽曲を楽しませてもらっていた。

 「いときんは見た目とは違ってというか、おおらかで優しくて…でも、内面は逞しくて、気持ちが強くて…。星野仙一さんもそうでしたけど、病気になんて絶対負けへん、そう思っていましたから。先月、病状を聞いてからずっと心配していました。ショックというか、言葉が出てこないです」

 安芸にいる藤本敦士(2軍守備走塁コーチ)と電話で話をした。「ヤクルトへ行っても曲を作ってくれましたし…」。藤本にとって「ET-KING」は切っても切れない盟友だ。打席へ入る登場曲はヒットナンバー『愛しい人へ』の藤本敦士バージョン。13年、僕は藤本の引退試合を神宮球場へ観に行ったのだが、「ふじもと打ったら、おもろいわ♪」と大合唱する燕党の声援が忘れられない。

 いときん…本名山田祥正(=よしまさ)が先月31日午前、がん性心膜炎のため、38歳という早過ぎる生涯を閉じた。4日、大阪で営まれた「よっちゃん」の告別式では、集まったファンが自然発生的に代表曲『ギフト』を合唱…涙、涙で棺を送り出したという。

 「ET-KING」といえば、阪神の10年開幕戦(京セラドーム)の国歌斉唱を懐かしむファンも多いと思う。同日、大役を終えたよっちゃんに声を掛けると「どうも!お世話になってます。いやあほんま緊張しましたわ~。けど、ええ思い出になりました」と汗をぬぐっていたことを思い出す。少年時代から野球と無縁だった彼がタイガースを深く知るようになったのは、虎好きのメンバーの影響ももちろんあったというが、実はあるラジオ番組への出演が大きなきっかけになったそうだ。

 MBS(毎日放送)で12年から放送された『夜はラジオと決めてます』。起用したのは同局の制作センターマネジャー高木康。彼は「ET-KING」のライブを観た際、いときんの「メッセージ性の強いMC」に惚れ込み、即出演をオファー。いときんは「やらせてもらいたいです」と快諾し、それまで疎かったプロ野球も熱心に研究したのだとか。更にMBS野球中継の阪神応援ソング『ええやんけ阪神』(ET-KING)を14年に世に出し、押しも押されもせぬ虎党になったのだ。

 昨夏、いときんは阪神公式サイトのインタビューで注目選手に鳥谷敬を挙げていた。キャンプで鳥谷を密着取材してみて「チームで一番の練習量」に驚いたそうだ。

 いときんが旅立って1週間が経った。この日の宜野座はキャンプ6日目にして初の晴天。グラウンドでは背番号1が二塁でノックを受けていた。優勝する為なら何でも…そんな心意気が36歳の躍動から伝わってくる。天国のよっちゃんは大好きな猛虎から最高の「ギフト」を待っている。=敬称略=

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