大輔より、悠輔でしょ

 【2月3日】

 吉田修一という芥川賞作家が好きで、実はよく文体を参考にさせてもらっている。全日空(ANA)の機内誌『翼の王国』を愛読していることは以前書いたが、その理由は同誌に「空の冒険」という吉田のエッセイが掲載されているからだ。連載101回目のタイトルは「ハナガキクヒト」だった。

 沖縄へ来る機内で楽しませてもらったのだが、吉田曰く、食や娯楽で「鼻が利く」友人を持つと人生の喜びが増える-そうだ。さまざまなジャンルで鼻が利く人は僕の周りにもいる。まったく知らぬ街で旨い店を見つける…そんな嗅覚の持ち主は確かに羨ましい。

 敏感で物を見つけ出すことなどに巧みである。「鼻が-」を辞書で引くとそうある。阪神を15年以上取材しているので、知人からよく聞かれる。今年の新人はどや。助っ人はいけそうか。選手の潜在性を見いだす、そんな「鼻」が利けばとは思うけれど、ズバリ予知は難しいし、残念ながら、僕にはあまりそんな能力がない…。

 いや、実は一度だけあった。妙に鼻が利いたことが…。あれは10年の1月。初めてマット・マートンと対面したときだ。来日後の初練習を甲子園で取材したのだが、同日の原稿の締めにこう書いた。この助っ人、もしかしたらもしかする-。所作。姿勢。雰囲気。外国人を幾多見てきた中で、そんなふうに書いたのは初めてだった。メジャーの大物ではなかったが、目と目が合うと、何かすぐにでも獲物を欲しているような、ただならぬものを感じた。今回は当たりクジじゃないか。そう思った。

 今の阪神にも実はいる。助っ人ではないが、息長く一流になるんじゃないかと、昨季、7年ぶりに僕の「鼻」が反応した選手が…。

 「北谷(ちゃたん)は盛況ですよ。(松坂)大輔効果です。僕は阪神を見ていたので、お客さんが多いのは慣れていますけど…」

 受話器の向こうで声を張るのは中日の新チーフスコアラー佐藤秀樹だ。長らく虎担当の007だった彼が宜野座に姿を見せないので連絡すると、しっかり昇進していた。で、佐藤と交代で虎についたのが井本直樹。井本は目前で快音を放つ背番号3に注目していた。

 「阪神は(主軸で)左打者が多いでしょ。福留、糸井、鳥谷。ここにもし、高山、糸原が入れば5人。本拠地が(浜風で左打者に不利な)甲子園ですから、金本監督は右で大きいのを打てる選手を使いたい。大山は振る力がついてきました。彼のような選手がレギュラーになれば、一つのポジションが長年安泰になりますから」

 井本の見解を聞きながら何度も柵を越える大山の飛球を眺める。僕の「鼻」が間違いなければ大山は大成する。『取材ノート』のくせに、これは取材じゃない。僕の嗅覚、いや第六感か。大山の放つ何かただならぬものにそう感じるのだ。「彼がレギュラーに定着したら、そりゃ嫌ですよ」と井本は言う。確かに、昨季大山が最も打点を挙げた球団は中日。佐藤チーフ、大輔より悠輔を見に来たほうがいいんじゃない?=敬称略=

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