MVPは「凡事徹底」の結実

 【11月20日】

 写真を見てもらいたい。うつむいているので誰だか分かりにくいが、カープ丸佳浩である。撮影は19日。つまり、この夜のNPBアワーズでリーグMVP表彰を受けた前の日のものだ。

 安芸を離れ、日南のカープ秋季キャンプを覗きに行くと、丸は自身を追い込んでいた。誰もいなくなったランチ時のグラウンドで、限界まで連続ティーをやる。この日に限ったことではない。ここで動画を掲載したいくらいだが、見ているこちらが辛くなるほど、彼はバットを振りこんでいた。

 キャンプが始まる前、金本知憲に伝えた。カープは若手キャンプではなく、リアルに1軍キャンプのようだ…と。金本は「そうはいっても、さすがに主力はガンガンやらないだろ」と推測していた。それも含めて確かめに行ったのだが…ガンガンやっていた。カープ打撃コーチの東出輝裕は「あれ、レギュラーのやる(秋季)キャンプじゃないでしょ」と笑っていたが、実に頼もしそうだった。

 丸はNPBアワーズ出席の為、19日に日南を離れた。「彼の打ち上げ日」に話を聞きたかったので球場出口で待っていたのだが、こちらが把握していた出発時刻を過ぎても出てこない。球団広報に確認すると、「まだウエートをやっています」とのこと。結局1時間半ほど出待ちすることになった。

 丸を追って宮崎から羽田へ飛んだ。所変わってここはグランドプリンスホテル新高輪。グレーのスーツで決めた丸が壇上でMVPの盾を掲げている。あのか細かった入団時の彼を知っているだけに、感無量というか…。見る目がない僕に言われたかないだろうけど、正直、彼がここまでの選手になるとは、全く予想できなかった。

 表彰式には阪神オーナーの坂井信也、球団常務の谷本修らも列席し、丸に拍手を送っていた。高卒10年目にして初の栄誉。12月1日付の人事で球団本部長に就任する谷本は「いやぁ、羨ましいですよ」と言った。生え抜きの高卒野手が年間最優秀選手。本紙記録部によると、2リーグ制以降、阪神の球団史で誰もいないという。

 個人的にすごく興味があったので、丸にぶつけてみた。リーグMVPを獲得した年に振りこんだ秋のキャンプは、あなたにとってどんな意義があったのか。

 「やっぱり、シーズンに入るとどうしても数字が隣り合わせになるじゃないですか。そうなると、結果が出たときと出なかったときで、自分のやりたいことがブレるときがあるんですよ。だから基本に立ち返って、改めてこういう方向でやっていこうと思えるのがこの秋のキャンプ。凡事徹底じゃないですけど、常にそれをやり続けることがどれだけ大事かということが、今回のキャンプを通じてまた分かったかなと思います」

 凡事徹底…。辞書には「何でもないような当たり前のことを徹底的に行うこと」とある。立ち返ることのできる土台=当たり前のこと。これを手中にした丸は強い。彼こそ金本が育てあげたいお手本のような選手である。=敬称略=

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