ホームアドバンテージの文化

 【11月17日】

 日本プロ野球に「ホームアドバンテージ」の文化はない。もちろん、ホームスタジアムであれば家族が側にいたり、専用のクラブハウスがあったり、なじみのグラウンドだって利はある。「ない」というのは、ゲーム運営上、進行上のアドバンテージのことである。

 例えば、欧州や米国ではホームアドバンテージを大前提にファンはプロスポーツを楽しんでいる。サッカーの主審なら、ホーム有利の笛など暗黙の了解。アウェーのサポーターは納得済みでブーイングを鳴らす。だけど、日本では運営上「ホーム=有利」の概念はないに等しい。ファンにも定着していないので、仮にNPBでそんなものがあれば、ビジター応援席は血相を変えて怒るかもしれない。

 なぜ、安芸でこれを書くのか。ここでタイガースの為に日々汗を流す阪神園芸のスタッフを見て「あの試合」を思い出したからだ。実は、ひと月前の泥んこ試合で阪神がDeNAに負けた夜に書こうと思っていた。タイガースはホームアドバンテージの恩恵を得られないまま敗退したのだ…と。

 あの試合、甲子園のバックネット裏に米国のプロスポーツ界ではちょっと名の知れた男性がいた。その人物はかつてランディ・ジョンソンらMLBのスター選手、NBAの大物プレーヤーのマネジメントに就いていたことでも知られる。彼は僕に話していた。

 「阪神にホームアドバンテージはなかったね。アメリカは露骨だよ。MLBならストライクゾーンはホームに有利だし、NFLでは審判が完全にホームアドバンテージを意識してゲームを作る。例えば大型ビジョンでのリプレー映像だって、明らかにホーム有利な判定の場合は意図的に見せないことも多いしね。選手はもちろん、ビジターチームのファンも、それを了承済みでゲームを見るんだよ」

 NPBが2リーグ12球団でやっている以上、すべてを納得させるCS制度はあり得ない。だから思う。日本プロ野球の「文化」を変えることはできないか…と。あの泥んこ試合でいうなら、ゲーム運営上あくまでシーズンの上位は阪神、つまり、ホームアドバンテージは絶対的に阪神にあるという大前提、暗黙の了解は連盟や審判団にはなかった(当然、ない)。誰がどう見たって野球をする環境ではない。でも、仮に中止にすれば阪神に有利。公平性を欠いてしまう…そんな判断で9イニングを目指したわけだが、シーズン上位を勝ち取ったホームチームからすれば、あの状況で公平性を保とうとされること自体が不公平…そんな考え方もできる。前述の人物は言う。「あれを中止にしても、DeNA側は文句言わないでしょ」。

 懸命な作業で試合を成立させた阪神園芸のもとにDeNAファンから手紙が何通も届いたという。同園芸施設部長の金沢健児に聞けば「感動しましたという内容のものが多かった」そうだ。「ありがたいですよね」。金沢はそう話す一方、我がホームチームの敗退を複雑な面持ちで見届けていたこともまた事実である。=敬称略=

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