因縁のヨコハマ

 【11月2日】

 横浜スタジアムのほど近くに、知る人ぞ知る鮨屋がある。築地で仕入れる素材は都内の三つ星店以上…だから、球界や芸能界でも名が通っている。金本知憲もカープ時代から通う老舗で、僕も何度か一緒させてもらっているのだが、一度だけこの店で金本と工藤公康が出くわした夜があった。

 まだ工藤が現役でベイスターズにいたころである。「常連なんだ?」「そうなんですよ」。そのときは互いに挨拶を交わした程度だったが、工藤は引退後、店の大将にこんな話をしていたそうだ。

 「僕、金本くんのような人間の特集番組をやりたいんですよ。できれば、1時間くらいの…」

 工藤がテレビ朝日「報道ステーション」のスポーツキャスターを務めていた時期だという。当時多ジャンルのアスリートを取材し、プロデューサー目線で「鉄人・金本」の野球人生にドラマを感じていたのだとか。大将からそう伝え聞いた金本は「工藤さんからそう言ってもらえるのは、光栄ですね」と、少し恐縮していた。

 工藤と金本。現役時代から両者に深い交流はない。そういえば86年の日本シリーズ(広島対西武)第2戦で先発した工藤を当時高校生の金本が広島市民球場の客席から観ていた…とは聞いたことがある。が、金本が僕に話した工藤との「接点」はそれくらいだ。

 通算224勝の工藤と、通算2539安打の金本はもちろん名球会で会えば話をする間柄だが、互いに抱く敬意は、その輝かしい球歴とは別の所にあるように思う。

 「まあ、野球が大好きじゃな。すべて野球を中心に物事を考えている男だよ。まったく妥協がないし、負けず嫌い。そんなところはお宅の金本監督に似てるよ。そっくり。厳しくするところもそうじゃし。カネがソフトバンクで監督をやったら、工藤監督と同じやり方をするんじゃないかな…」

 ソフトバンクの将、工藤公康とはどんな人間なのか。ハマスタでヘッドコーチ達川光男に聞けば、真顔でそう語るのだ。

 現役時代からカープ大野豊に憧れていた工藤はかつて達川に頼みこんできたという。「一度、大野さんと一緒に食事をさせてもらえませんか?」。達川が両者を取り持ち、工藤がベイスターズ時代に広島で実現した食事会…。「長く野球をやりたいんです。どんなトレーニングをされていましたか?」。ともに囲んだテーブルで工藤が大野に尋ねたことだ。工藤の野球人生に欠かせなかったカープの魂。達川が金本との共通項を見出したのは、伝統の「赤い血」も無関係ではないだろう。

 「仮に工藤監督が阪神へ行ったらカネと同じようなやり方をして同じようなチームになると思う。考え方も、よう似てるから」。達川はそう言ってハマスタを後にした。引退後、水面下でベイスターズの監督を打診された工藤の組閣構想には、実は達川の名もあったといわれる。福岡へ持ち帰るDeNAとの決戦も因縁か。金本に似た工藤の負けん気を見届けるために僕も福岡へ向かう。=敬称略=

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